ALO編
六十一話 瞳開かず──
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クな話なのでつい話してしまったんだ。涼人君の事まで……本当にすまないね」
「いえ。大したことでは有りませんから」
人がフォローする。事実、公にならなければ大したことでは無いから良いのだが、もう少し口の堅い人であって欲しかったなぁ。と和人も涼人も思った。
彰三氏は続ける。
「実は、彼は私の腹心の息子でね。昔から家族同然の付き合いなんだよ」
「ああ、社長、その事なんですが──」
彰三氏がそう言った時不意に、和人との握手を終えた須郷氏が振り向き、彰三氏の方を向く。
「来月にでも、正式にお話を決めさせて頂きたいと思います」
「──そうか。しかし、君は良いのかね?まだ若いんだから、新しい人生も……」
「いえ。僕の心は、昔から決まっています。明日奈さんが、今の美しい姿で居る間に……ドレスを着せてあげたいのです」
『ドレスだぁ!?』
須郷氏のその発言聞いた瞬間、涼人は自分の眉がピクリと動くのを抑える事が出来なかった。それはつまり……
考え切るより前に、彰三氏の話が進む。
「そうか……そうだな。そろそろ、覚悟を決める時かも知れないな……」
そう言うと、彰三氏は和人の方に向き直り柔らかく微笑む。
「それでは、私は失礼するよ。桐ヶ谷君、また会おう」
そう言って、身をひるがえし、病室から出て行く彰三氏の後姿には何処か……哀しんでいる様な色が見えた。
そして、部屋が静寂に包まれる。
初めに動いたのは、須郷氏だった。
ゆっくりと明日奈のベットの方へと動き出し、明日奈の顔のすぐ横に立った。丁度、横たわる明日奈の身体を挟んで和人と須郷氏が向き合うように。涼人が中間で、少しベットから離れた、傍観者の様な立ち位置になる。
アスナの横に付いた須郷は唐突に、自身の目の前に有るアスナの栗色の髪をひと房つまみ、音を立ててすり合わせ始める。
その動作には愛情や優しさは無く、むしろ自身の玩具を弄ぶような……些かの悪意さえ感じる動作で、キリトの顔が若干歪む。
「君はアスナと、あのゲームの中では一緒に暮らしていたんだって?」
須郷氏は顔を伏せたままだったが、少し離れてその様子を見て居た涼人には、その顔が見えた。
糸目だった瞳がギラリと見開かれ、その奥から三白眼が覗き、唇の端を引きつるように上げて笑う。誰が言わずとも、残酷な性質を体現した様なその顔に、涼人の警戒心が一気に上がる。
気のせいでは無かったのだ。
「なら、君と僕は少々複雑な関係と言う事になるのかな」
そこまで言った所で、須郷が顔を上げ、表情が見えたのだろう和人は戦慄したように眼を見開く。
「さっきの話はねぇ……僕と明日奈が、結婚すると言う話だよ」
『ちっ……』
須郷のその発言を聞いた涼人が舌打ちを内心で済ませたのは、半ば奇跡に近かっただろう
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