空白期(無印〜A's)
第二十三話 裏 後 (アリサ、すずか)
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すずかは、少なくともキスという行為に対してはアリサよりも理解していた。もっとも、理解しているだけで、したいと思ったことはないが。確かにすずかは翔太と仲良くなりたいと思っているのは確かだ。だから、今回の旅行も楽しみだったし、今日の浴衣も翔太に合わせて黒を選んでみたし、月の形をしたアクセサリーをプレゼントされたときは、飛び上がりたいほどに嬉しかった。
だから、すずかは今の光景を信じたくはなかった。夢だと思いたかった。だからこそ、こうして布団にもぐりこんでいる。
―――そう、夢だよ。うん、明日になったら普通に朝が来て、みんなで帰るんだ。
眠気は襲ってこない。だが、それでも、今見た光景が夢だと信じたくて、すずかは、夢の世界へと逃げ出した。
◇ ◇ ◇
明けて翌日。車に揺られて数時間で帰宅した月村すずかは、荷物をファリンに預けて、それからをよく覚えていない。姉の忍に旅行について聞かれたような気もするし、晩御飯を食べたような気がするし、お風呂に入ったような気がする。分かっているのは、今はすでに寝巻きに着替えており、後は寝るだけという状況だけだ。
部屋にお風呂に入り、部屋に入ったすずかは、一直線にベットに向かい、倒れこむようにベットに寝転がった。すずかにしては珍しいことだ。
「……本当のことだったんだ」
数時間ぶりに言葉を口にしたような気がする。
本当のことというのは、昨夜のことだ。帰宅途中の車の中ですずかは、なけなしの勇気を振り絞って昨日のことを聞いた。できれば、ずっと寝ていたよ、と翔太が言ってくれることを期待して。しかしながら、答えはすずかの期待を裏切って、アリサと一緒にいたことを告げるものだった。キスのことを口にしていなかったが、キスという行為は口にすることはないだろう。目の前にアリサの両親もいることだし。
「……ショウくんとアリサちゃんって恋仲だったんだ」
それを口にしたとき、すずかの中でズキンと痛みが走った。その正体は、すずかには掴みきれていない。だが、そのことを考えようとするとまるで、それを邪魔するように痛みが走るのだ。だが、認めないわけにはいかない。すずかは昨日の夜、彼らがキスしている光景を目にしてしまったのだから。
すずかにとってキスという行為は、恋仲である男女がするものである。
それをはっきりと認めた、認めてしまったとき、まず、浮かんできたのは、羨ましいという羨望と自分が望んでいる以上のものを既に得ているという憎々しさだ。それから、次々に浮かんでくる。
どうしてアリサの位置にいるのが自分ではないのだろうか? いつの間にアリサとショウくんは恋仲になったんだろう? アリサちゃんは、私がショウくんと仲良くなりたいのを知ってたの?
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