空白期(無印〜A's)
第二十三話 裏 後 (アリサ、すずか)
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っと、ショウっ! 背中向けてたら意味ないでしょうっ!」
そう、翔太はなぜかずっとアリサとすずかに背中を向けるような形でお風呂に浸かっていた。一応、声をかければ応えは返ってくるのものの、これではまったく意味がない。昨日の垣根を越えた向こう側といるのと何が違うのだろうか。アリサの目的は一緒にお風呂に入ることだ。それは、何も同じ湯船に浸かることだけではない。例えば、大きな温泉には劣るものの、部屋から見える山々に沈む夕日というのは一見の価値があるだろうし、それを三人でお喋りしながら見るのは楽しいと思う。だが、こうして翔太は、自分達からも背を向け、風景からも背を向けている。まるで、何もかもを拒絶するように。
―――それが、アリサの癇に障った。
翔太の態度が、行動が、何もかもが。
「ええいっ! こんな風にタオルなんて巻いてるからよっ!」
たかだかタオル一枚。だが、それすらもアリサには自分達と翔太を隔てる壁のように思えて仕方なかった。だから、まずは自分の体に巻きつけられたタオルをスパンと外す。水を吸ったタオルは少し重かったが、勢いよく外したのが功を奏したのだろう。遠心力を得たタオルは鞭のようにお風呂の淵にパチンという音を立てて叩きつけられた。
「すずかっ! ショウのタオル外すから押さえてっ!」
「うん、分かったよっ!」
え? という声を翔太が出すが、もう遅い。そのときには背後に回ったすずかが、翔太のわきの下から腕を通して拘束するような形になっていた。ばしゃばしゃとお湯をかき分けて、翔太に近づくと腰に巻かれたタオルの結び目に手を伸ばす。やめて〜、と翔太が叫んでいるような気がしたが、それはハエを追い払うように無視して、あっさりと翔太のタオルはするりと解けてアリサの手の中にあった。そして、すぐさま淵ではなく、少し遠くにタオルを投げ捨てる。これで、取りに行くことはできないはずだ。
「まったく、何を恥ずかしがってるんだか」
こうして、何一つ身に纏っていない今でも別になんてことはない。翔太だけは一生懸命、見ないように顔を背けていたが。
「ほら、見なさいよ」
そんな翔太を無理矢理首を動かして、ある方向を向けさせる。それは山間部に今にも太陽が沈みそうな綺麗な風景だった。もう明日の昼には帰るのだからきっともう見れない刹那の風景。昨日見たときから思っていたのだ。これを三人で見たらきっといい思い出になると。
少しだけその景色から視線を外して翔太に目を向けてみると先ほどまで叫んでいたことも忘れて、景色に見入っているように思える。
それを見てアリサは少しだけため息のように息を吐きながら思う。
―――まあ、ちょっとばたばたしちゃったけど、これもいい思い出よね。
思い出は、静かなものよ
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