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リリカルってなんですか?
空白期(無印〜A's)
第二十三話 裏 後 (アリサ、すずか)
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 アリサ・バニングスは鼻歌を歌いながら、明日からの温泉旅行に向けて準備をしていた。洗面用具、着替えなどなど、男の子から比べれば幾分多い荷物を手際よくバッグに詰めていく。ゴールデンウィークなどの長期休暇に彼女が旅行へ行くことは初めてではない。その経験が十分に生きているのだろう。どこか、思考が準備よりも明日のことに馳せているのにその手が止まることはない。

 明日は、あれをして、これをして、ああ、あれも忘れちゃいけないわよね、とパンフレットを見ながら考えた行動計画をもう一度、思い出していた。アリサが持っている温泉街と泊まる旅館のパンフレットには書き込みと丸印がいくつも書き込んであった。どれだけアリサがこの旅行を楽しみにしてるかが手に取るように分かろうというものだ。

 アリサがこの旅行を楽しみにしてるのもある意味当然だった。アリサは今まで、友達で泊りがけで旅行というようなイベントを体験したことはない。仲のいい女の子同士の小学生ならば、お泊り会なども考えられるが、アリサの親友は、月村すずかと蔵元翔太の二人だ。どう考えても、そんなイベントを企画する側ではない。一番可能性があるとしたら、それはやはりアリサ本人ということになるだろう。

 今までは運が悪かったのか、星のめぐりが悪かったのか、そんな機会が中々巡ってこず、結局明日の旅行が友達の中での初めてのイベントということになる。だからこそ、アリサのテンションはいつもりも上がっているのだから。なんにしても初めてというのは興奮を伴うものである。

 だが、そんなテンションもピークに達すれば、ある時点で急にストンと落ちてしまう一瞬がある。つまり、一気に冷めて冷静なる瞬間だ。それが、アリサには準備が終わり、バッグのファスナを閉めた時点で訪れた。一度、浮かれていた熱が冷め、冷静になるとアリサは、すっかり準備が完了したバッグの前でうむむ、と唸り始める。

 冷静になった瞬間、アリサは不意に自分の目的を思い出したからだ。

 ―――翔太に自分のことを好きになってもらう。

 それは、彼女の親友である月村すずかと蔵元翔太がお互いがお互いを好きにならずに三人一緒にいるための対策だったのだが、如何せん、その方法が分からない。そもそも、その前に前提条件として『好き』という感情が分からなければ、アリサに手を打つ手段がない。着地点が分からないのに道筋が描けるわけがないのだ。

 できることならすぐにでも『好き』という感情を理解したかったアリサだったが、担任からは、既に答えを貰っている。それはアリサはアリサだけの恋があるということ。つまり、翔太に好きになってもらうためには『翔太の好き』を理解しなければならないのだろうが、自分自身の好きさえ理解できないアリサが『翔太の好き』を理解できるとは到底思えなかった
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