空白期(無印〜A's)
第二十三話 後
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るとは思わなかった。アリサちゃんがすずかちゃんへのリベンジを諦めなかったのだから仕方ない。もっとも、アリサちゃんがすずかちゃんに勝てることはなかったが。
さて、残りの時間は持ってきていたトランプで適当に過ごして、就寝―――だったのだが、疲れているはずなのに眠れず、こうして夜の散歩へと繰り出したのだ。小学生が寝る時間としては十分だが、大学生だった記憶のある僕としてはまだ時間的には十二分に許せる日付が変わる直前のような時間帯だ。外に出るわけではなく、警備がそれなりにしっかりしている旅館の内部なら大丈夫だろう、と思って散歩に出かけた僕は、中庭にベンチ都合のいいベンチを見つけてこうして月を見上げていたわけだ。
奇妙な癖のようなものだった。前世の頃からだ。飲み会の帰りや友人宅からの帰り道。一人でこうして夜空に浮かぶ月を見上げる事が。しかも、そのときに限って小難しいことを考えてしまうのだ。例えば、哲学のような。
人生とは何か? どうして、僕は今ここにいるのか? 生きる意味って何だろう?
考えても答えが出ないことであるとは承知しておきながら、それでもそんなことを何故か考えていた。そして、今も考えている。
―――どうして、僕はここにいるんだろう? と。
それはもう考えても仕方ないことだし、幼い頃から考えていたことで、僕の中の答えは持っている。要するに気にしない、という正解には程遠い答えではあるが。
もっとも、これ以上、考えて頭がおかしくなりそうだから、僕は思考を意図的に他の場所へと誘導する。
「明日には帰るのか」
残念なような、我が家が恋しいような。旅行の終わりとは何ともいえない空しさが募るものである。旅行が楽しければ楽しいほど尚のことである。この旅行が終われば、学校という現実が待っているのだから。
人生が楽しいことだけで埋められればいいのに、と子どもでも思わないことを思ってしまった。だが、不意に自分の中にその言葉に反論が生まれた。人生が楽しいことだけであれば、それは日常であり、楽しいことを楽しいとは気づくことはないだろう、と。辛いこと、悲しいこと、きついことがあるからこそ、楽しいと思えるのである。
世界は美しくなんかない。そしてそれ故に、美しい。
つまり、同じようなことだろう。世界が美しいもので埋め尽くされているならば、それを美しいということに気づくことはない。ただそこにある普遍なものであるはずだ。世界には美しくないからこそ、美しいのだ。
「って、何を考えてるんだろう?」
小難しいことを考えないために思考を誘導したはずなのに何故か、またしても小難しいことを考え始めていた。これが月の魔力というものだろうか? 月には人を狂わせる魔力があるというから。ヨーロッパの方に残る
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