空白期(無印〜A's)
第二十三話 後
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ないが。僕たちからお礼を言われた仲居さんは、「どういたしまして」といった後、僕たちを見渡して、ふっ、と笑って口を開いた。
「あらあら、君、両手に可愛い花を持っているわね」
にっこり笑いながら、それだけ言うと、ほほほほ、と袖で口元を隠しながら、仲居さんは、次の仕事があるのだろう。別の場所へと行くために去ってしまった。その場に残されたのは、仲居さんの言葉に呆然としている僕とアリサちゃんとすずかちゃんだけだ。
「両手に花って……あたしたち花なんて持ってないわよね?」
アリサちゃんは、国語の成績はいいのだが、さすがに小学生が両手に花という言葉を知っているわけではなかった。僕は当然知っているとして、すずかちゃんも知っているのだろうか。少し照れたような表情をしていた。
「ねえ、ショウ、どういう意味かしら?」
純粋無垢な瞳で僕に聞いてくるアリサちゃん。だがしかし、ここで素面で説明できるほど僕の面の皮は厚くない。だから、誤魔化すように済ました顔で僕は「さあ?」と答えた。
「それよりも、早く行こう。時間がなくなっちゃうよ」
まだまだ、夕方までは相当時間があるにも関わらず、早くこの話題を打ち切りたいため、誤魔化すようにアリサちゃんを急かして僕たちは温泉旅館を飛び出すのだった。
◇ ◇ ◇
温泉旅館の目の前に広がる温泉旅館の客をターゲットにした商店街とも言うべき温泉街を僕達は歩いている。こういう場所で、先陣を切るのは決まってアリサちゃんだ。彼女は、楽しそうに僕とすずかちゃんよりも二歩ぐらい先を駆けていく。
浴衣にも関わらず大丈夫なのだろうか、と思うかもしれないが、僕たちの履物はスニーカーだ。浴衣には付き物の下駄をはいていない。今日は、温泉街を探索するため、長時間歩くことになるだろう。それなのに普段から履きなれない下駄など履いては、足が痛くなるのは目に見えている。だから、僕たちは浴衣にスニーカーという格好で外を歩いていた。外見上は小学生なので勘弁願いたいところだ。
「なにやってるのよっ! 早く来なさいよっ!」
旅館で貰ったパンフレットを片手にアリサちゃんが大きく手を振りながら僕たちを呼んでいる。僕とすずかちゃんは、いつもの事ながら、思わず苦笑して、まるでアリサちゃんの親のような―――いや、兄や姉のような気分になりながら、呼ばれるままにアリサちゃんの下へと歩き出した。
さて、温泉街というのは、思ったよりも広い事が分かった。もしかしたら、海鳴にある駅前商店街よりも大きいかもしれない。しかし、色合いはかなり異なる。当然といえば、当然だが。こちらは観光客目当て、駅前商店街は地元住民目当てなのだから。駅前の商店街は、生活に密着した晩御飯などの材料のための店や喫茶店がほと
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