空白期(無印〜A's)
第二十三話 後
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狼男然りだ。
しまった。まただ、と思って、何か別のことを―――考えるべきことを考えている僕に不意に声がかかった。
「ショウ、なにしてるの?」
「―――アリサちゃん?」
声の持ち主は、足元に置かれた淡い光に照らされながら薄暗い闇の中から出てくる。そこに立っていたのは、僕が出るときには布団の中に入っていたはずのアリサちゃんだった。どこか不安そうな顔をしながら闇の中から出てきたアリサちゃんはゆっくりと僕のほうへと近づいてきた。
「座ってもいい?」
「あ、うん」
僕の隣に座るアリサちゃん。疲れているのか、あるいは、眠たいのをおしてきているのか、いつもの彼女の快活さは鳴りを潜めていた。
僕とアリサちゃんの間に無言の時間が少しだけ流れる。当たり前だ。こんな夜中に散歩している途中で見つかって、何を話せというのだろうか。しかも、アリサちゃんがいつもどおりならまだしも、鳴りを潜めたように大人しいのだからどんな対応をするべきか僕も悩んでいた。
しかしながら、その静寂を破ったのは、僕ではなくアリサちゃんだった。
「ねえ、ショウはチュウしたことある?」
「ぶっ!」
突拍子もない言葉に思わず噴出してしまった。驚きのあまり、僕は昨日の親父のように口をパクパクしているだろう。
さて、突然、アリサちゃんがこんなこと言い出したのは何でだ? と疑問に思い考えた結果、答えはすぐに出てきた。
「もしかして、あの池の庭に行ったの?」
僕の問いにコクンと頷くアリサちゃん。もしも、彼女が僕を追ってきたのであれば、確かに遭遇した可能性は十分にある。
この旅館には中庭が二つあって、一つは僕たちがいる中庭であり、もう一つは真ん中に大きな池がある中庭だ。同じようにベンチがおいてあり、足元を淡く照らす程度の明かりしかない。僕も朝の案内図に書いてあったことを思い出し、向かったのだが、行って後悔した。なぜなら、そこにはカップルしかいなかったからだ。
しかも、足元を照らす程度の淡い光しかなく、彼らの目からは闇の中にいる僕の姿や他の人たちの姿はよく見えないのだろう。彼らは自分達の世界に入っていた。つまり、人の目を憚ることなく―――とは言っても、それぞれが自分の世界に入っていたのだから、人の目などないに等しいのだが―――いちゃついていたというわけだ。
そんな姿に驚いて、僕はこの場に逃げてきたわけだ。この場には幸い、僕と同じように数人ののんびりしたい男性や女性がちらほらいるだけだ。なぜ、池がある中庭がカップルに人気か、というと、真ん中の池に夜空がちょうど写しのように映って実に綺麗だからだ。むしろ、差別化のためにこの中庭を作っている感じがする。
「ないよ」
とりあえず、無言になった空間
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