空白期(無印〜A's)
第二十三話 前
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その一押しを口にした。
「なに、今日はともかく、明日は一日あるんだ。明日、一緒に入ればいいじゃないか」
問題の先送りにしかならない言葉だ。だが、それはアリサちゃんをとりあえず納得させるには十分だったのか、少しだけ顎に手を当てて考えた後、明らかに納得が言っていないような声で結論を下した。
「し、仕方ないわね。パパがかわいそうだから、今日は譲ってあげるわ」
おそらく、これがアリサちゃんの精一杯の優しさなのかもしれない。父親であるデビットさんにぐらいはもう少し優しくてもいいんじゃないだろうか、と思うのだが。もっとも、僕としては日常生活の中で慣れており、そんな素直になれないアリサちゃんの態度に笑みが浮かぶぐらいだ。
それは、アリサちゃんの後ろにいるすずかちゃんと梓さんも同じなのだろう。口元を隠してはいたが、むしろ、その所為で笑っている事が、十分に分かってしまった。
「それじゃ、決まったことだし、行こうか」
この決定を逃すほど愚かではない。自分にとって都合のいい決定がなされたなら、即決行だ。僕とデビットさんは男湯へ、アリサちゃんとすずかちゃん、梓さんへ女湯へと「じゃ、また後で」と手を振りながらお互いに姿を消すのだった。
◇ ◇ ◇
「おおぉ……」
脱衣所で服を脱ぎ、室内のお風呂へと入り、そこで体を洗う際にデビットさんと分かれた僕は、体を洗った後、この旅館の自慢にもなっている露天風呂へと行ってみた。まだ時間が早いせいか、あるいは偶然か、露天風呂には誰一人いなかった。僕が感嘆の声を上げたのは、そこからの風景によるものだ。
山々に囲まれているせいか、海鳴にいるよりも若干早い日暮れ。夕日が山間に姿を消そうとする一瞬を目にする事ができた。そこは、夜と昼が入り混じる逢う魔が時。不安定な時間。消え行く一瞬だけの時間。だからこそ、この時間が尊いもので、儚いもので、美しいと思えるのかもしれない。
「いつまで、風景に見入っているのかな?」
突然、背後からそんな風に声をかけられた。その声には聞き覚えがあった。当たり前だ。先ほどまで一緒に行動していたのだから。
「早く入らないと、風邪を引いてしまうよ」
背後から近寄ってきたデビットさんは僕にそう言いながら、湯船に浸かる。デビットさんが言うことも尤もだ、と思い、僕もデビットさんに続いて湯船に入った。湯船の温度は少し熱いぐらいだが、温泉に入るのならば、このくらいがちょうどいい、と僕は思う。湯船に浸かった瞬間、思わず、はぁ、と疲れたような声を出してしまうのは僕が日本人だからだろうか。
デビットさんと僕が並んで湯船に浸かり、無言の時間が流れる。果たして、傍から見れば、僕達はどんな関係に見えるだろうか。近くで入ってい
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