空白期(無印〜A's)
第二十三話 前
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旅館なのにテーブルの真ん中にミカンがおいてあるのが何ともシュールに感じられた。
しかも、驚きはそれだけではなかった。居間からは外に出る事ができ、小さな庭のような場所には、大人であれば、二人か三人程度しか入れない小さなお風呂があった。いわゆる家族風呂というやつだろうか。さらに、そこから見える風景は絶景で、山々が見渡せる風景になっていた。
どこをどうみても非の打ち所のない高級温泉旅館だった。本当にこんなところに泊まっていいのだろうか。しかも、費用はアリサちゃんの家の好意で、ただである。一般庶民的な感覚しか持っていない僕としては不安にならざるをえなかった。
もしも、僕が大人、あるいはそれに順ずる中高生なら、まだ幾分か費用について問うこともできただろう。だが、この身は未だに小学生。果たして、問う事はいささか不可解だ。ともすれば、僕の両親が問うように言われたと勘違いされても困るものである。しかし、気になってしまう。前世の経験が、僕の人生にとってプラスなのは間違いないだろうが、今、この瞬間だけはその経験が恨めしかった。
やがて、預けていた荷物を持った仲居さんが、僕達の荷物をもってやってくる。荷物の一つ一つが広くて大きな部屋に置かれる。その中でも僕のボストンバッグは一番小さいといえるだろう。しかしながら、女性の旅行は荷物が多くなると聞くから、当然といえば当然なのだろう。
それぞれが荷物を取り入れて、さて、どうしようか? というな雰囲気が流れ始めた頃、おもむろにデビットさんが切り出した。
「温泉に来てやることは一つしかないな。温泉に行こうか」
ご尤もである。温泉に来ているのに温泉に行かない道理はない。当然ながら、反対する人間は一人もおらず、満場一致で温泉へ行く事が決定した。
―――よもや、温泉に入る前にひと悶着あるとは思いもよらなかったが。
「一緒に行けばいいじゃないっ!」
「いやだっ!」
温泉の前、『男』と『女』の暖簾が靡く前で、僕とアリサちゃんが言いあっていた。いや、正確にはアリサちゃんが僕を女湯のほうへと連れ込もうとしていた。現状、僕の手首を引っ張って連れ込もうとしているのだから間違いない。
もしも、僕が普通の小学生の精神年齢であれば、大人しくアリサちゃんたちと一緒に女湯へ入っていたかもしれない。小学三年生というのは段々と異性との壁ができる年齢だから、僕のように拒否するか、安易に一緒に入るという選択肢を選ぶかは、確率的には半々ではあるが。しかしながら、僕は二十歳に近い精神年齢を持っているのだ。彼女達に欲情するようなバカな真似はないが、『女の子と一緒にお風呂に入る』という事象そのものを拒否したい。たとえ、アリシアちゃんと一緒に入った事がある事実があろうとも、自発的に入れば、それは越
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