空白期(無印〜A's)
第二十三話 前
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ぜか急に頭を抱えて蹲り始めた。
「ど、どうしたのさ?」
「……あの人は、俺の会社の親会社の社長なんだ」
「あ……」
そういえば、そうだったのを忘れていた。親父が言うまですっかり忘れていたが、そういえば、そんな話も聞いたような気がする。今の今まですっかり忘れていたが。しかし、原因がはっきりすれば、親父がこんな風に慌てるのも分かる。一平社員と社長の心の距離というのは、銀河系ぐらいに離れているらしい。アメリカなどでは距離が違うのかもしれないが、生憎ながらここは日本であり、その心の距離はそんなに間違ってはいないだろう。
そんな人が目の前に現れたのだから、それは慌てるに違いない。
「あっ、って、知ってたなら教えてくれよっ!!」
確かに知っていれば、心の準備もできただろう。だが、僕としてはあまりそれは関係ないような気がする。なぜなら―――
「大丈夫じゃない? デビットさんだって、会社の―――しかも、子会社の社員なんて覚えてないよ」
そう、親父は子会社の社員として、デビットさんの顔は知っていたのかもしれないが、デビットさんが親父の顔を知っているとは思えない。親父の地位が、子会社の幹部や社長ならともかく一部署の長程度では、知らないだろう。
慌てていた親父は僕の言葉で少しだけ落ち着きを取り戻したのか、うむ、と考えるような顔つきになってようやく冷静に戻ったようだった。それもそうか、と呟いているところから、僕の言葉で納得したようだ。
ある意味、正気に戻った親父は、僕を伴って玄関先へと戻ることになる。親父の行動に怪訝な顔をしていたデビットさんと梓さんだったが、親父が誤魔化すようなにこやかな笑顔で、近づき右手を差し出した時点で大事ではなかったのだろうと判断したのだろう。デビットさんは、親父の右手を握っていた。
「ご迷惑をおかけすると思いますが、息子をよろしくお願いします」
何所にでも見られるようなありきたりな言葉を交わしていたデビットさんと親父だったが、いつまでも玄関先で井戸端会議のように話しているわけにもいかない。アリサちゃんも何所となく不機嫌になりかけて苛立っているのが分かるから。彼女からしてみれば、楽しみにしていた旅行をこんなところで足止めを喰らっているのが気に食わないのだろう。
そんな空気をデビットさんと梓さんは感じたのか、母さんと親父と話を切り上げて、玄関先に停めてあるいつも使っているリムジンよりも一回り大きな車へと向かう。
僕も最後に母さんと親父に手を振ろうと振り返ると、母さんと親父のほかに見慣れた顔を二つ。僕を見送ることを嫌がったアリシアちゃんと彼女に付き合っていたアルフさんだ。母さんの影に隠れるようにこっそりと見送るアリシアちゃんだったが、こちらを見ながらこっそ
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