第四十六話 形変その七
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「ですから」
「では俺はだ。中に戻らせてもらう」
「映画を楽しまれますね」
「そうさせてもらう。ではな」
「楽しまれるといいです」
老人の言葉はここでは鷹揚なものだった。そうしてあった。
牧村は映画館の中に戻り若奈と共に映画を楽しんだのだった。その帰りだ。
またサイドカーに乗る。若奈は側車に乗っている。彼女はその側車からだ。こう彼に対して言ってきたのだった。ヘルメットを着けたままだったがそれでもだった。
「あの」
「何だ」
「映画、どうだった?」
「映画か」
「ええ。どうだった?」
「悪くはなかったな」
こう答えた牧村だった。
「だが」
「だが、なのね」
「幾分か眠かったな」
「やっぱりね。そうだったのね」
「少し長かったな」
牧村の映画への感想だった。
「どうにもな」
「私も」
「そうだったのか」
「面白かったけれど長かったわね」
若奈も同じ感想であった。
「それで少し」
「眠くなったか」
「もう少し短かったら問題ないのに」
「そう思うな。どうもな」
「それを思うと残念な映画だったわ」
実際に表情にもそれが出ていた。残念そうな顔になっていた。
「本当にね」
「編集はしていなかったのか」
「ディレクターカットね」
「それはしていなかったのか」
「そうかも知れないわね」
こう言う若奈だった。
「これはね」
「それだけの長さだな」
「ええ」
若奈も頷く。
「長かったから」
「長いのも考えものだ」
牧村はこうも言った。
「本当にな」
「じゃあインド映画は?」
若奈はここでこの国の映画を話に出した。
「どうかしら、あれは」
「最早何が何なのかわからない」
これが牧村のインド映画への返答だった。
「最早な」
「そうなの」
「カオスか」
それだというのである。
「あれは」
「カオスなのね」
「そうだ。混沌」
この言葉を出してだった。牧村は己の言葉に気付いた。そうしてだった。
そのうえでだ。こう訂正した。
「いや」
「いや?」
「カオスだな」
混沌という言葉はあえて使わなかったのだ。妖魔を意識してしまう為だ。
そしてだ。彼はまた言った。
「この場合のカオスとはだ」
「混沌とはまた違うのね」
「違う。清濁あるものだ」
「清濁ね」
「濁りばかりの混沌ではない」
それこそがだ。妖魔の混沌であるというのである。
「それとはまた違う」
「濁りばかりの混沌?」
「そうしたものもある」
「そうなのかしら」
「濁りばかりのものもまたある」
妖魔を脳裏に浮かべてだ。そうしての言葉だった。
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