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髑髏天使
第四十四話 妖虫その十九

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「若しこの妖魔に勝てればだ」
「どうだというのだ」
「それで」
「この混沌の空間から出してやろう
 こう約束するというのである。
「その時はな」
「写真の約束か」
 死神がその言葉を受けて返してきた。
「それを信じろというのか」
「如何にも。その通りだ」
「信じると思うか」
 死神は鋭い目で男に返した。
「混沌の世界には法なぞない筈だが」
「そうだ、ない」
 男もこのことを認めるのだった。言葉だけで頷いてみせる。
「混沌の中に法律というものはない。秩序なぞありはしない」
「ではどうして信じろというのだ」
 こう男に返す。
「法がないというのにだ」
「言葉がある。そしてだ」
「そして」
「今度は何だ」
「我等とてこの状況を楽しんでいるのだ」
 口元に僅かな綻びが見えていた。
「この戦いをだ」
「それでだというのか」
「そうだ。勝てばまた新たな妖魔を用意する」
 男は悠然とした態度で言った。
「その時にはだ」
「そうか、それでか」
「それで出すというのか」
「そうだ。今再び約束する」
 またこう言ってみせる男だった。
「これでいいな」
「話は聞いた」
 牧村が言った。
「それではな。その妖魔を出すことだ」
「そうだな。それではだ」
 男が言うとだった。その後ろにだった。
 蛆が出て来た。ただし普通の蛆ではない。それは途方もない大きさの蛆であった。
「大きいな」
「ドールという」
 男が牧村に対して答えた。
「それがこの妖魔の名だ」
「ドールか」
「手強いとだけ言っておく」
 男はその言葉に余裕を見せていた。ここでもだった。
「この妖魔はな」
「大きいからといってだ」
 牧村はその巨大な、混沌の中に蠢く白い蛆を見てもだ。臆してはいなかった。
「強いとは限らない」
「自信があるか」
「無論だ。そしてだ」
「そしてか」
「その根拠を今から見せてやろう」
「私もだ」
 死神も牧村に続いた。
「それではだ。行くぞ」
「面白いではここでも見せてもらおう」
 男は二人の話を聞いて答えた。
「貴様等のその戦いをな」
「そしてやがては貴様をだ」
「貴様を倒す」
 二人は男を見据えて言葉を告げた。
「ここで勝ちだ」
「やがてはだ」
「私と戦うのか」
「如何にも」
「その通りだ」
 また男に言葉を返した。
「ではだ、行くぞ」
「その時を楽しみにしていることだな」
「いいだろう。それでは今はだ」
 男は悠然とした態度を崩すことなく述べてみせた。
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