第四十四話 妖虫その十六
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「死ぬのもまた一種の眠りだからね」
「眠りにつくという言葉通りだな」
「その通りだよ。そして眠りもね」
「一種の死か」
「そういうこと。わかったね」
「わかった」
まさにそうだというのだった。
「だから僕達はいつも一緒なんだ」
「兄弟みたいなものか」
「そうだね」
目玉もこう返す。
「本当にお互い同時に産まれたしね」
「誰が産んだ」
牧村はその出生について問うた。
「貴様達を産んだのは誰だ」
「ああ、産まれたじゃないんだ」
「産まれたのではないのか」
「出て来たんだ」
そうだというのである。
「僕達はね。出て来たんだ」
「誰からも産まれていないのか」
「神ってのは産まれるだけが誕生じゃないから」
「そういえばそうか」
「ほら、ギリシア神話のガイアなんかそうじゃない」
大地の母神だ。その産まれは誰からも産まれたものではない。まさに原初の母なのがギリシア神話における母神ガイアなのである。
「最初からいたじゃない」
「ああ」
「それと同じなんだ、僕達って」
「そうした神はだ」
それを聞いてまた言う牧村だった。
「かなり高位だな」
「あっ、わかるんだ」
「ガイアと同じ出生だと聞けばな」
牧村はこのことから察したのである。
「おおよそわかる」
「成程ね」
「つまり創世神に近いか」
「死と眠りはね」
目玉は己が司るものもその兄弟が司るものも話した。
「どちらもこの世に最も必要なものだから」
「それでか」
「うん、それでだよ」
こう言うのであった。
「だから僕達は最初の頃に産まれたんだ」
「それによってか」
「けれど僕達はあれだよ」
「あれとは」
「妻もいないし子供もいないんだ」
「どちらもか」
「うん、どちらもいないんだ」
つまり家族はないというのだ。
「死と眠りにはね」
「眷属はいないのか」
「うん、お互いだけだよ」
死と眠りだけだというのだ。
「その他には誰もいないよ」
「孤独か」
「そう言われると違うし」
孤独ではないという。
「だって。いつも一緒にいるからね」
「それでなのか」
「そう。そしてね」
ここでまた言う目玉であった。
「いいよね、今から」
「行くか」
「うん、行こう」
牧村をあらためて促した。
「戦いの場にね」
「今度の相手は誰だ」
「少なくとも尋常な相手じゃないよ」
「そうだな。妖魔はな」
「僕達もよく知らないんだ」
目玉は目に曇ったものを見せて述べた。
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