第四十四話 妖虫その九
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「夏休みの間に一回はね」
「そうだな」
「それで帰るの?」
「いや」
妹の言葉に首を横に振る。そんな話をしながらだ。二人は屋敷の居間に向かっていた。兄は妹に対して冷えた茶と菓子を出していた。それは。
「アイスティーとアイスクリームなの」
「そうだが」
「お兄ちゃんが作ったの?」
「どちらもな」
「紅茶は淹れて冷やすだけだけれど」
未久は木の台の上に置かれたガラスのコップの中の茶とガラスの容器の中のアイスクリームを見てだった。そのうえで兄に話した。
「それでアイスはね」
「難しいと思うか」
「思うわ。こんなのどうやって作るのよ」
「コツがある」
「コツが?」
「コツがわかれば作ることができる」
そうだというのである。
「どんな菓子でもな」
「そういうものなの」
「それでどうだ」
スプーンを持っている妹に対して問う。彼は彼女の向かい側に座りその前にはやはり同じアイスティーとアイスクリームがある。
「見た目は」
「いいんじゃない?」
その白に近いクリーム色のアイスを見ての言葉だ。
「外見はね」
「そうか」
「お菓子って見た目も大事だけれどね」
これはよくわかっている妹だった。
「それで次よね」
「そうだ、味だ」
「少し待って」
それはだというのである。
「食べてみないとわからないから」
「わからないか」
「当たり前じゃない。食べ物は何の為にあるのよ」
「食べる為だ」
「だからよ」
それでだというのである。
「まずは食べさせてもらうわ」
「わかった。それではだ」
「よし、食べるわね」
「ああ」
こうして未久はそのアイスクリームを食べてみた。するとだった。
その味を一口確かめてからだ。言うのだった。
「いいじゃない」
「そうか」
「ええ、いいわ」
にこりとなっての言葉である。
「お兄ちゃんアイスもいけるじゃない」
「ならいい」
「それじゃああれよね」
ここでさらに言う妹だった。
「マジックでも通用するよね」
「またそれか」
「ええ、それよ」
このことを隠しもしなかった。
「充分いけるわよ。若奈さんも満足してくれるわ」
「そうか」
「そういうこと。それで私もね」
「御前もか」
「将来はあそこでウェイトレスさんね」
にこにことして話す。
「アルバイトには困らないわね」
「御前が望むのはそっちか」
「第三の御願いよ」
「第三か」
「第一と第二は違うわよ」
そしてこうも話すのだった。
「第一はね」
「ああ」
「まずはお兄ちゃんと若奈さんが幸せになること」
それだというのである。
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