第四十三話 熾天その九
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「御願いね」
「店の為だな」
「同時に私達の為よ」
「俺達もか」
「だってうち喫茶店よ。喫茶店がなかったらどうするのよ」
「困るな」
「そういうこと。だからよ」
シビアな話でもあった。彼等が生きるかどうかもそこにかかっているというのである。若奈の考えることは現実に関しては実に厳しかった。
「私も頑張るから」
「そしてウェイトレスは」
「妹達と。それに」
「未久か」
「未久ちゃんなら看板娘になれるわね」
「なれるか」
「だって可愛いし頭がいいし」
まず言うのはこの二つであった。
「それに小柄だけれどスタイルもいいし」
「スタイルもいいのか」
「いいわよ。均整が取れててね」
胸だけを見てはいなかった。全体を見ての言葉であった。
「あれは絶対に人気が出るから」
「いいか」
「太鼓判押すわ。未久ちゃんは確実に人気が出るわ」
「しかし喧嘩は強いぞ」
「尚いいわ。体操部だったわよね」
「ああ」
「体操は身体全体使うから。筋肉が発達するからね」
若奈はそのことについても話す。
「牧村君と二人で用心棒のツートップね」
「あいつは基本的に喧嘩はさせないが」
「させないの」
「それ位なら俺がやる」
「お兄さんだから?」
「そうだ」
それが理由なのだというのだ。
「あいつに危険は降りかからせない」
「成程ね。合格よ」
「合格か」
「マジックの入社試験合格よ」
「そんなものがあったのか」
「そう、試験官は私」
若奈はにこりと笑って牧村に告げた。
「その心を見たのよ」
「俺の心をか」
「正直幾ら腕があっても心がないとね」
「駄目だな」
「そう、全然駄目」
まさに駄目出しであった。
「それがあってこそよ。例えばね」
「例えばか」
「牧村君みたいにフェシングやテニスができても」
「ああ」
「それでも心が伴ってないと駄目じゃない」
彼が鍛える為にしているこの二つから話すのだった。
「それがないとね」
「ただ強いだけか」
「それって何にもならないじゃない」
「何にもか」
「そうだ、ならない」
彼はまた言った。
「何にもだ」
「そうよ。そんな人普通に駄目よ」
「駄目か」
「幾ら強くてもそれでも心がないとただ強いだけ」
限定した言葉だった。
「それだけ。そんな人は最後にはね」
「終わるか」
「だって魅力も何もないから」
だからだというのであった。
「そんな人はね」
「そうだな。そうした相手は知っているしな」
「いるわよね、本当に」
「そうした相手は何でもない」
「下らない相手なのね」
「そうだな。心がある強さこそがいい」
彼はまた言った。
「それがあってこそだな」
「そうよ。だから牧村君は合格よ」
笑って告げる
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