第四十三話 熾天その三
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
茶室に入るとだ。祖父はもう茶の用意を済ませていた。そうして二人に対してであった。その茶をそれぞれ差し出したのであった。
牧村はまずは菓子を食べる。それは饅頭だった。
「抹茶のか」
「茶と茶だがどうだ」
「茶は好きだ」
こう祖父に返す彼だった。
「だからいい」
「そうか」
「そして茶だが」
「作法はわかっているな」
「聞いてはいる」
茶器の中のその茶を見ながらの言葉だった。
「最も実際にするのははじめてだがな」
「はじめてか」
「茶道は今まで実際にしたことがなかった」
「ならしてみるといい」
「余計にか」
「知らなかったことを知る」
祖父はまた言った。
「そうしていって人は大きくなるのだからな」
「それでか」
「そうだ、知るのだ」
また孫に話した。
「大きくなりたいな」
「強くなりたいと思っていた」
「いた、か」
「ただ身体が強くなればいいと思っていた」
それが今までの彼だった。
「しかしそれだけではないこともわかった」
「心を持たぬ強さは何か」
祖父は己の茶を手にしながら述べた。
「それは何だと思うか」
「蛮勇か」
牧村はその強さをそれだと断言した。
「それだな」
「そうだ、そのものだ」
「蛮勇は何にもなりはしない」
牧村もまた茶を飲みながらだ。素っ気無く述べた。
「最後には敗れ消えるものだ」
「そうだ、蛮勇は消えるものだ」
「その通りなんだよね」
祖父だけでなく祖母も言ってきた。
「確かなものがない強さなんて何にもならないんだよ」
「それも見てきたのか」
「そうだよ。見てきたよ」
祖母はここでも孫の言葉に答えるのだった。
「それもね」
「人生経験というやつか」
「その通りだよ。長く生きていると色々なものを見るからね」
「かつてだ」
祖父がここでまた話す。
「この道場に一人の中学生が来た」
「その中学生ではないな」
「その子は剣道が好きだった。それで部活に入ったのだがな」
「顧問か先輩に問題があったな」
「顧問に問題があった」
そちらにあったというのだ。
「非常識な教育方針だった。それでその子は顧問に打ちのめされ部活を追い出されてそのうえでこの道場に来たのだ」
「非常識な教育か」
「試合に負けて生徒を全員丸坊主にさせるが自分はしない」
「そうした教師は多いな」
そしてだ。牧村はこうも言うのだった。
「いい鉄は釘にはならない」
「次の言葉は何だ」
「いい人間は教師にはならない」
これが牧村がここで言いたいことだった。
「全てがそうではないがそう言わせる教師が多いな」
「その教師は剣道四段だった」
「四段でもか」
「生徒に理不尽な暴力を幾度も振るい罵倒し続けていた」
「あの戦争の後増え
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ