第四十三話 熾天その二
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「私達が屋敷で門下生の人達にお汁粉を御馳走した時にね」
「その時に何をした?」
「お汁粉を飲んだ後の茶碗に痰を吐いたんだよ」
「何っ!?」
その話にはだ。牧村も思わず動きを止めた。
「茶碗の中に痰を」
「そうだよ。味噌汁茶碗だったけれどね」
祖母はその茶碗の種類も話した。
「そこに吐いたんだよ」
「そんなことをする人間がいたのか」
「普通はしないよね」
「そんなことをする人間には会ったことがない」
牧村の声はいささか以上に驚いたものになっていた。表情にも声にも喋り方にも感情を込めない彼だが今回ばかりは違っていた。
「そこまで無作法な人間にはだ」
「いや、お婆ちゃんも他の門下生の人達も驚いてね」
「当然だな」
「唖然として。お爺さんも怒ってね」
祖父もだというのだ。
「その人をその場で破門にしたよ」
「当然だな」
「お爺さんがあそこまで怒ったのを見たことがないし」
「それ程怒ったのか」
「破門したのもその時だけだよ。その人だけだよ」
「その時だけか」
「他にはいないよ。うちの道場は来る人は拒まずだから」
そうした道場なのだというのである。
「だからねえ。あの時は余計に驚いたよ」
「破門がか」
「破門されるような人がいたなんてね。お爺さんにね」
祖母は牧村に話しながら首を捻っていた。彼の横の流し台で皿やフォークを洗っている。実に手馴れた素早い動きで洗っている。
「そんな人がいたんだってね」
「そこまでする人間がいるとはな」
「まあ普通はそこまで落ちられないよ」
「最低限の律する心があればか」
「そうした人はそうしたことが全くないんだろうね」
こう孫に話すのである。
「やっぱりね」
「だからそういうことをするか」
「だろうね。本当に信じられなかったよ」
「茶碗に痰をか」
「いや、お婆ちゃんもはじめて見たよ」
「俺もはじめて聞いた」
「それだけ有り得ないことなんだろうね」
祖母は食器を洗いながら首を右に左に傾げさせていた。
「この歳になってはじめて見たことだからね」
「人間の下品さには限りがないか」
「ないけれどそこまで落ちられる人はいないよ」
祖母は言った。
「小さな子供でもそれはしないだろ?そういうことだよ」
「そうだな。どんな小さな子供でもそれはしないな」
牧村も頷いて応える。
「そこまで有り得ないな」
「そうだよね。それで茶道はね」
「礼儀か」
「それを身に着けるものでもあるからね」
孫に今言うのはこのことだった。
「しっかりとしないとね」
「そうだな。それはな」
「茶道もまた礼にはじまり礼に終わるからね」
「それはわかっているつもりだ」
「じゃあ。洗い終わったし」
二人同時だった。洗いものを終えていた。
「
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