第四十二話 共闘その五
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牧村は中に何かを感じていた。それが終わってだ。彼は言うのだった。
「この座禅でだ」
「座禅で?」
「俺は掴むことができた」
こう共にいる若奈に話す。
「今あるものをな」
「今あるものって」
「ただ。トレーニングをしているだけでは不十分だ」
「心の鍛錬もってこと?」
「簡単に言えばそうなるか」
多くは言えなかった。髑髏天使であることはだ。自分以外の誰にも、人間である者には誰にも何があろうと言えないことであるからだ。
それでだ。彼は今はこう言ったのであった。
「それで今している」
「心ね」
「これまで心のことは考えていなかった」
牧村はこう若奈に話す。
「しかし今はだ」
「そういうことね。成程ね」
若奈も彼のその言葉に頷いてだ。こう返したのだった。
「いいと思うわ」
「いいか」
「ええ、求道っていうのね」
若奈はここではこれまで自分の口からは出さなかった。言葉を出した。
「それよね」
「そうだな。求道か」
牧村もその言葉に静かに応えた。
「そうなる。俺は今それもしている」
「身体だけじゃなく心も鍛えれば」
若奈は話しているうちに微笑んできていた。
「きっとね。よくなるわ」
「今よりもだな」
「ええ、よくなるわ。さらに強くなれるわよ」
「フェシングもテニスもだな」
「人間としてもね。いいじゃない」
太鼓判まで押した若奈だった。
「何か私が思ってたよりもずっとずっと」
「ずっとか」
「牧村君って大きくなったのね」
しみじみとした口調もここで出してみせた。
「人間としてね」
「人間としてか」
「そうよ。身体は前から大きかったけれど」
言いながらふと自分の小さな身体のことも思う。しかしこれは言っても仕方がなかった。それでも思わざるを得ないことでもあった。
「今度は。人間としてもなのね」
「そうなるか」
「なってるわ。私負けそう」
今度は少し残念そうな言葉だった。
「牧村君にね」
「負ける、か」
「人間としてね。何かそう思うと」
自然にだ。出てしまった言葉だった。
「私も頑張らないとね」
「頑張るか」
「そうよ、頑張るわ」
また言ったのだった。
「頑張るからね。私もね」
「それならだ」
「それなら?」
「頑張るといい。だが」
「だが?」
「一人で頑張るよりも」
牧村もだ。ここでは自然に言葉が出た。これもまた今までの彼とは違っていた。それを言ってから自覚した。そうした言葉だった。
「二人だ」
「二人?」
「そう、二人だ」
言いながらだ。若奈だけでなく未久や博士、それにあの男のことを考えた。それぞれ時と場合に応じて共にいる相手のことをだ。
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