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髑髏天使
第四十話 漆黒その六

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「どうじゃ、それは」
「初版でか」
「うむ、自殺した話もリアルで聞いた」
 それはもう歴史になっていることであるが博士は違っていた。
「勿論太宰の話もじゃ」
「それもか」
「そうじゃ、それもじゃ」
 もう一人の自殺したことで有名な作家に関しても話した。
「思えばどちらも結核じゃったしな」
「あの頃って結核にかかったら終わりだったからね」
「だよね、梅毒もね」
「終わりだったからね」
 ペニシリンは終戦直後からのものである。フレミングが見つけたものだ。
「それまでかかったら終わり」
「そういうものだったからね」
「だからあの人達はどちらにしてもね」
 長生きできなかった。それは事実だった。
「けれど自殺したのはね」
「残念だったよね」
「確かにね」
「あれはショックを受けた」
 博士もその自殺について詳しく語りはじめた。
「芥川のも太宰のもな」
「どちらもか」
「終戦直後は織田作之助も死んだ」
「あの作家もだったな」
「結核じゃった」
 彼等が今いるその大阪の作家である。
「残念なことにじゃ」
「結核ね、あれはね」
「もう少しで助かる病気になってたのにね
「本当にね」
 妖怪達もしんみりとしたものになっていた。
「それがああして」
「死んだなんてね」
「もう何ていうか」
「惜しいことじゃった」
 博士も腕を組んで話す。
「結核でどれだけ死んだのか」
「わからないか」
「数え切れぬ程死んでしまった」
 そしてこうも話すのだった。
「わしの友人も結核で死んだ」
「そうだったのか」
「いい奴じゃったがな」
 言葉がしんみりとしたものになっていた。
「しかしそれでもじゃ」
「結核でか」
「死んだ」
 博士は苦い声で話す。
「まことに無念じゃ」
「その友人の墓には今もか」
「行くぞ。七十年になるか」
「七十年か」
「長いかのう」
 ふとその時間も振り返るのだった。
「それは」
「長いと言えば長いだろうな」
 牧村もそれは否定しなかった。
「そうか。結核か」
「結核や梅毒で死んだ者は多かった」
 これがその時代だというのである。
「わしにはついこの前のことに思える」
「僕達もだよ」
「それはね」
「本当に最近だよね」
「あの戦争の頃だから」
「世の中は変わるものじゃ」
 博士はまた話した。
「実にな。それでじゃが」
「それでか」
「昔と変わらんものもある」
 こうも言うのであった。
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