第四十話 漆黒その五
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「そういうことじゃ」
「全くだ。巨人は負けてこそだ」
「君もアンチ巨人じゃったな」
「巨人か」
「うむ、嫌いじゃな」
「大嫌いだな」
これが返答だった。
「負けてこそだ」
「よい心掛けじゃ。そうあるべきじゃ」
「博士も巨人嫌いだしね」
「戦前からね」
「そうそう、阪神ができた頃から応援してるしね」
「古いよね」
その時からのアンチというのである。そして阪神ファンだというのだ。
「年季が違うよね、普通の人と」
「そういえば博士って野球は何時から好きだったの?」
「職業野球の前から?」
「大学野球の頃からじゃ」
その時からだというのである。
「興味を持ったのはあれじゃな」
「あれ?」
「あれっていうと?」
「旧制中学の時からじゃ」
戦前は中学は五年だった。そして義務教育は小学校までだった。
「その頃からじゃな」
「旧制中学か」
「聞いたことはあるな」
「そのうえにだ、だったな」
牧村の言葉だ。
「高校が三年あったな」
「大学は三年だったり四年だったりした」
「そういう時代だったか」
「士官学校や兵学校は中学を出てから入った」
所謂陸軍士官学校、海軍兵学校のことだ。
「それは知らんか」
「一応知ってはいた」
牧村も勉強しないという訳ではないのである。
「それはな」
「左様か、それはいいことじゃ」
「しかしだ」
「しかし?」
「実感はない」
それはないというのである。
「知らないからな」
「まあ若いとどうしてもそういうことはな」
「知らないか」
「旧制中学も昔の話じゃ」
こう言うのだった。
「だから仕方がない」
「そうか」
「わしは当然旧制中学出身じゃがな」
「そして旧制高校か」
「あの頃の高校は大学のようなものじゃった」
高校のことも話すのであった。
「そこが違うのじゃよ」
「そういうことか」
「そしてじゃが」
博士の話は続く。
「あれはあれで非常に楽しい場所じゃった」
「旧制高校ねえ」
「博士の青春だからね」
「そうそう」
このことも話される。
「もう八十年以上前になるけれどね
「九十年じゃないの?」
「そうだったかな」
その年齢は実際のところわからなくなっているところがあった。
「まあ戦前だね」
「そうだね」
「それも昭和の初期か大正か」
「そんな頃だね」
「芥川龍之介の本は初版で読んだぞ」
博士は自分からその年齢をおおよそ話してきた。
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