第三十七話 光明その四
[8]前話 [2]次話
「他人をそういう気にさせる。罪な男だよ」
「そうだったのか」
「若奈ちゃんも乗せてるんだろ」
そのまま若奈のことも言ってきた。
「あの娘も。そうなんだろ?」
「横にだ」
素っ気無い言葉だった。
「乗せている」
「やっぱりね。そうだね」
「横に乗せてそうしてだ」
「いつも送ってるのね。若奈ちゃんも喜ぶわ」
「ちょっと叔母さん」
しかしだった。後ろで声がしてきた。
若奈の声だ。エプロンの彼女が出て来て言ってきたのである。
「何言ってるのよ」
「何って?」
「だから。牧村君によ。何言ってるのよ」
顔を赤くさせてだ。そのうえでの言葉だった。
「変なこと言わないでよ」
「言ってないわよ、別に」
「聞こえてたわよ」
しかしそれでも若奈は言う。
「ちゃんとね。聞こえてたわよ」
「あら、そうだったの」
「そうだったのって」
「全然おかしなことじゃないじゃない」
本当に素っ気無い言葉である。
「そうでしょ?事実なんだし」
「事実って」
「それでどう?サイドカーの横は」
それを本人にも問うてみせる。
「いい感じ?やっぱり」
「風を感じるわ」
自分が運転しているようにも聞こえる言葉であった。
「ちゃんとね。感じるわ」
「けれど寒くはないわね」
「だからそれは」
叔母の言葉に顔をむっとさせる。しかしだった。
「別に」
「別になのね」
「そうよ。別にね」
また言う若奈だった。
「言わなくてもいいじゃない」
「もう言ってるし」
「言ってないから」
「強引に話を進めるわね」
「いいじゃない、だから」
意固地にさえなっている。そうした言葉だった。
「お店、お客さん来られてるし」
「おっ、可愛い娘だな」
「ああ、美人だよな」
「おばちゃんにそっくりだよな」
「なあ」
叔母がここで反応を見せた言葉はだ。これであった。
「お姉さんよ。おばちゃんじゃないわよ」
「あっ、これは失敬」
それを言った男も笑って返す。そしてこう訂正したのだった。
「じゃあお姉さん」
「それでいいわ」
そう呼ばせて満足した顔になるのだった。
「多いにね」
「それでさ、お姉さんさ」
「何?それで」
「この娘お姉さんによく似てるね」
話は完全に仕切りなおしになっていた。
「っていうかそっくりなんだけれど」
「ああ、それはね」
叔母もだ。明るく笑って彼に返す。
「当たり前だよ。姪なんだし」
「姪御さんなんだ」
「ええ、そうなのよ」
こう言うのであった。
「だからね。それも当然よ」
「へえ、姪御さんね」
「確かにそっくりだよね」
「何もかもね」
皆で言う。それと共に顔を見比べてもいる。すると余計にだった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ