第三十六話 日常その二十
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「座禅をだ。今はそれをしている」
「そうだったの。座禅をなの」
「そこから何かを得る」
得られればいい、とは言わなかったのだった。
「そして得ようとしている」
「ああ、もう掴みかけてるのね」
「もうすぐだ。それではだ」
「ええ、それじゃあね」
「何かを掴んでそれを使う」
目が強くなっていた。その光がだ。
「必ずだ」
「そうするといいわ。それじゃあね」
若奈は牧村がどうして決意したのかはあえて聞かずに笑顔で述べてきた。髑髏天使のことは知る筈もない、だが彼が何かを思っているのは察していたからだ。
「座禅も頑張ってね」
「そうさせてもらう」
「それじゃあね。また明日ね」
こんな話をして今は別れるのだった。彼等は今は平和だった。そして屋敷に帰るとだ。
鍛錬の後でまた座禅をするのであった。その座禅を終えるとだ。祖父と祖母が二人で彼に言ってきた。
「昨日よりもさらによくなっているな」
「そうね」
夕食を食べながらのやり取りだった。ちゃぶ台を囲んで座りそのうえで話をしている。
「一日ごとにな」
「いいことね」
「そうか。よくなっているか」
牧村は丼の中の麦飯にとろろをかけていた。祖母のこだわりで山芋には麦飯だというのだ。それで今は麦飯を丼の中に入れているのだ。
「座禅だけではなくか」
「全てがな」
「よくなっているよ」
また言う二人だった。
「少しずつだがな」
「確かにね」
「そうか」
牧村はとろろを食べながら祖父母の言葉に頷いた。
「ならいいがな」
「それでだがな」
「この夏はずっとここにいるんだよね」
このことも問われた。
「ならゆっくりと考えるんだな」
「あんたのその中にあるものもね」
「中か」
「悩んでいるな」
祖父はこのことを察していたのだ。
「その悩みの中が何かはわからないがな」
「悩みは誰にもあるよ」
祖母もこう言ってきた。彼女も察していたのだ。
「それでもだ。それを越えればだ」
「あんたは大きくなれるからね」
「人としてだな」
牧村は二人にあえて人という言葉で返した。
「それでだな」
「そう、人としてだ」
「それでなんだよ」
「ならわかった」
頷いた彼だった。
「それでな」
「しかしね。あんたもね」
「何だ?」
「悩んでそれを越えて大きくなっていくんだね」
祖母の言葉はしみじみとしたものだった。
「少しずつね」
「そうか。少しずつか」
「そうだよ。少しずつね」
また言うのであった。
「なっていくよ。けれど」
「けれどか」
「道を踏み外すこともあるだろう」
祖父の言葉だ。
「道をな。それをだ」
踏み外すか」
「そうなっても惑わないことだ」
こう言うのである。孫に対してだ。
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