第三十六話 日常その十八
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「それがどうしたのよ」
「全く。何なのよ」
「何なのってこうなのよ」
ある意味見事な切り返しだった。
「見た通りよ」
「全く」
「全くも何もなくてね」
「ないの?」
「そう、ないのよ」
また言うのであった。
「わかったわね」
「何かこの夏休み不安になってきたわ」
「大丈夫、悪いようにはしないわよ」
「悪いようにはって」
「あんたが幸せになるようにするからね」
だからだというのである。
「安心していいからね」
「全く。これじゃあ本当にこの夏休みどうなるかしら」
「どうなるのかしらって」
「叔母さんのところに入るの止めようかしら」
「それ本気?」
「今のところ本気じゃないわ」
とりあえずこうは言ったのだった。
「安心してね」
「安心はするわ。それでもね」
「それでも?」
「若奈ちゃんも夏休みは安心しなさい」
こう言うのだった。
「それはいいわね」
「わかったわ。じゃあこの夏はね」
「バイト代は弾むから」
それはだというのだ。
「しっかり頑張ってね」
「アルバイト代いいの」
「時給八五〇円よ」
額も言ってきた。
「それでいいわよね」
「ええ、じゃあ」
「はい、じゃあ頑張ってね」
「うん。そういえば牧村君って」
若奈はここでまた牧村に顔を向けた。そうして声をかけてきたのだった。
「あれよね」
「あれか」
「そうよね。アルバイトとかしないわよね」
「金は特に欲しくはない」
だからだというのである。
「だからそれはいい」
「そうなの」
「お小遣いだけで足りている」
そしてこうも言うのだった。
「それだけで充分だ」
「そうなの」
「必要になれば見つけて働く」
素っ気無くすらある言葉だった。
「だからだ。それはいい」
「無欲なんだね」
「欲があっても死ねばそれで終わりだ」
若奈の叔母に対してもこう話した。
「それでだ」
「何か悟ってるね」
「悟ってるか」
「悟っているし落ち着いてるね」
また叔母が言ってきたのだった。
「歳の割にはね」
「そうでしょ。牧村君ってそうなのよ」
若奈がその叔母に説明する。
「実際にね。そうなのよ」
「大人びてるかというとまた違うかしら」
叔母は彼を見ながらこう言った。
「むしろ。何か色々と経験してきたみたいにね」
「そんな感じなのね」
「そうね。そうした感じね」
「言われてみればそうね」
叔母もそれで頷いたのだった。
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