第三十五話 瞑想その七
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「それは」
「わかるか」
「言わずともわかることだ」
こう孫に言うのであった。
「目の光がそうだからな」
「目か」
「目は口程にものを言う」
昔から言われ使われている言葉であった。
「だからこそだ」8
「それでか」
「そうだ、迷いがあるのならばだ」
「どうせよというのだ?」
「おそらくそれは剣で断ち切れるものではない」
また孫に告げた。
「禅だな」
「禅か」
「そうだ、座禅だ」
それを話に出してきた。
「座禅をすることだ」
「座禅をか」
「それをしていくことだ。いいな」
「座禅をすればいいのか」
祖父のその言葉を聞いてだ。牧村はあらためて言った。
「それをか」
「そうだ。いいな」
「それがいいというのならだ」
静かに頷いた彼だった。
「そうさせてもらおう」
「そうするか」
「そうさせてもらう。それではだ」
こうして彼は座禅に入った。道場の中で座りそうして目を閉じる。それと共に無我の中に入りその中に留まり続けるのであった。
それを暫く続ける。ここで声がした。
「よし」
「終わりか」
「急ぐことはない」
祖父は目を開けた彼にまた言ってきた。
「決してだ」
「急ぐことはないか」
「そうだ、急ぐ必要はない」
目を開けた彼の前に立っていた。そのうえでの言葉であった。
「決してだ」
「わかった。それではだな」
「戻るといい。修業自体もこれで終わりとする」
「今のが座禅か」
彼はふと言うのだった。そしてだ。
祖父に対して問う。その座禅のことをである。
「これは黙想とは違うな」
「武道の最後に行うあれとか」
「あれとはまた違うのだな」
「そうだ、違う」
そうだというのである。
「また違うものだ」
「無我の世界に入っていたが」
「それが禅だ。迷いはその中で消え去る筈だ」
「続けていけばだな」
「そうなっていく。では帰ろう」
「屋敷にか」
「そうして休めばいい。これでな」
こう言って孫を屋敷の中に戻す。この日はそれで終わりだった。
次の日は未久は家に帰ることになった。それがかなり残念そうだった。
「部活はじまるのよね」
「嫌か」
「ええ、かなり嫌」
こう兄に対して言う。リュックを背負う背中にもその気持ちがオーラとなって出ていて背負うようになっている。そのうえでの言葉であった。
「もうね。一昨日に戻れたら」
「部活が嫌ではないのだな」
「大阪の食べ物を食べられなくなるのが嫌」
そういうことだった。
「それがね」
「ではまた来い」
「お兄ちゃんはいいわよね。ずっと大阪なんでしょ?」
「そうだが」
「大学生っていいわよね」
兄を羨む言葉さえ出す。それも心の奥底からである。
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