第一話 刻限その七
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「とにかくじゃ。彼がおる」
「生きているんだね」
「人間は生きていなかったら動けん」
自明の理だが影達にとってはそれは決して自明の理ではないようであった。
「極楽か地獄へ行き生まれ変わることになるわ」
「そういえばそうだったね」
「人間はね」
影達もそれを聞いて納得したようだった。
「何かそれって寂しいね」
「死んだらそれで生まれ変わりってね」
「仕方なかろう。それが人間なのじゃからな」
博士の言葉は少し居直りが入っている感じになっていた。
「とにかく。それでじゃ」
「そうそう。それでその学生さんだけれど」
「どんな人なの?」
彼等が次に聞いたことはこれだった。
「とにかくそれを知りたいんだけれど」
「どんな人?」
「名前は牧村という」
博士はまずは彼の名前から語った。
「牧村来期というのじゃ。今年で二十歳になる」
「とにかく二十歳になるんだね」
「左様。かなり無愛想じゃが根はいい奴じゃ」
そして次には牧村の人間性について言及した。
「それは確かじゃ」
「そうなんだ。いい奴なんだ」
「まあ悪い奴よりいい奴の方がいいよね」
「そうそう。悪い奴は御免だよ」
影達は口々に述べていく。その様子が実にテンポよくそのうえユーモラスなものであると言えた。人間ではないようだがそれでも調子がいい。
「人間でも僕達でも悪い奴がいるから」
「そして今年は」
その今年であった。
「今年こそその五重年に一度の」
「悪い奴が一度に出て来る時」
「今年は特にとんでもないのが一杯出て来るんだよね」
「この本によればそうじゃ」
本をまた開いた。そこに書かれていることはやはり博士にしかわからないが彼はそれを読みつつ影達に対して述べるのであった。
「果たしてどうなるかじゃが」
「まああれだね。はじまってみないとわからない」
「そうそう」
また影達が言いだした。
「そういうことだね。結局ね」
「はじまらないと何かと言えないよな」
「どうなるかなんてね」
「そうじゃな。まだ誰がなるのかもわからんしのう」
博士は机の上で腕を組んで顔を上げて言った。
「とりあえず誰がなるのか見てからじゃな」
「そうだね。まずははじまってから」
「じっくりと考えようよ」
「うむ」
こうして博士と影達の話し合いは終わった。だが彼等はそのまま部屋に留まり今度はそれぞれ酒や食べ物を出して楽しく宴会をはじめた。その頃牧村は家を出てサイドカーに乗り妹を迎えに行っていた。夜の道の中を黒と銀のサイドカーが進む。サイドカーにある銀色の光が夜の街を照らす電灯を反射し闇の中に映し出されていた。
「さて」
牧村はその中で前を見据えていた。
「丁度いい時間か。いや」
ここで右手をちらりと見た。そこには腕時計
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