第三十五話 瞑想その六
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「どれも大阪にしかない」
「神戸の味って少し違うわよね」
「だからだ。神戸でも食べたいがな」
「そうね。まあ神戸からは近いし」
だが未久はこう言うのだった。
「すぐに来られるし」
「それでいいのか」
「いいわ、別にね」
そしてにこりと笑ってもみせた。
「お兄ちゃんのサイドカーで来ればいいし」
「俺は夏の間ここにいるつもりだが」
「じゃあ電車でね」
それでだと返す。即答だった。
「それで行くから」
「何が何でも食べるつもりか」
「人生は何の為に生きているのかよ」
不意にこんな人生論まで出す妹だった。
「それだとどうなのよ」
「食べる為か」
「そう、人生は食べる為にあるの」
まさにそれだというのだった。
「そうでしょ?やっぱり」
「そこまでは思わないがな」
「人生は楽しむもの」
今度は蛸を食べる未久だった。
「そしてその中で最も楽しいことはね」
「食べることか」
「そういうこと。さて、じゃあ」
「それではか」
「まだ食べられるわよね」
蛸を食べながらの兄への問いだった。
「まだ。そうよね」
「そうだと言えば」
「食べましょう」
返答はこれしかなかった。
「いいわね、お腹一杯ね」
「わかった。それではだ」
「食べて食べて食べまくって」
とにかく繰り返せばいいという感じだった。
「それで楽しみましょう」
こんな話をしながら串カツも楽しむ二人だった。それを食べてから祖父の屋敷に戻る。未久は夏休みの宿題にかかり牧村はまずランニングをしてそれから筋トレーニング、それとテニスにフェシングのトレーニングをした。それが終わった時にだった。
「いいか」
「ああ」
祖父が出て来た。中庭でテニスのラケットを持っている彼に声をかけてきたのだ。
「何だ」
「剣道はどうだ」
こう彼に言ってきたのである。
「その素振りをしてみるか」
「そうだな」
祖父のその言葉に応える。
「それではな」
「よし、では道場に来るのだ」
また彼に告げた。もう夕も暮れようとしている。その中でのやり取りだった。
「いいな」
「よし」
こうして彼は木刀での素振りにかかった。白い床が実にいい。彼はそこで祖父に素振りを見てもらった。そしてまずはこう言われたのだった。
「筋はいいな」
「いいか」
「少しやれば段になれる」
こう言われたのだった。
「剣の動きもいい」
「そうか」
「だが」
しかし、であった。
「しかしな。それでもだ」
「何かあるのか」
「迷いが見られる」
「迷いか」
「そうだ。心当たりはあるな」
孫の目を見ての言葉であった。
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