第三十五話 瞑想その五
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「そういう存在だった」
「そして今もなのね」
「そういうことだ。あいつは反面教師だ」
彼はまた言った。
「死んでからもだ。そうした意味で人の役に立つ」
「他の人のね」
「そう考えると学校はいい場所だな」
「いいの、それで」
「反面教師という教師には事欠かない」
牧村は教師という職業に質の悪い人間を多く見てきた。だからこその言葉だ。それを今シニカルに妹に対して述べてみせたのである。
「あいつはその最高の例だ」
「最高のなの」
「そうだ、最高のだ」
最高とはいっても褒めてはいない。言葉に嫌悪と侮蔑がはっきりと出ている。
「そうした意味で役に立っている」
「もう一つあるんじゃないかしら」
ここで未久はまた言ってきた。
「あいつには」
「もう一つか」
「死んで皆大喜びよ」
言うのはこのことだった。
「本当にね。誰もがね」
「死ぬのも奉公のうちか」
元老の一人山縣有朋が死んだ時に言われた言葉だ。
「そういうことだな」
「死んだ方がいい人間っているのね」
「残念だがいる」
その通りだと答える牧村だった。
「世の中更正しない人間もいるからな」
「そういうものなのね」
「しかし更正する人間もいる。その更正した人間の過去を暴いて糾弾する奴もいるがな」
「ちょっと待って」
未久は兄の今の言葉に眉を顰めさせて返した。
「更正した人の過去を暴いて責めるって!?」
「そうした人間もいる」
冷静に述べるのだった。
「そうして己の正義を満足させる奴がだ」
「つまり人の古傷暴いて攻撃するのね」
「そういう人間はどう思うか」
「最低じゃないの?ある意味あいつ以上に」
「そう思うか」
「普通にそう思うわよ」
串カツを食べながら述べる。
「私はね」
「だがそういう人間もいる」
牧村もまたその串カツを食べながら話した。
「それはね」
「そうだな。そういう奴はだ」
「人間じゃないわよね」
「必ず碌な死に方をしない」
こう言うのだった。
「末路はそうなる」
「そうならないとかえって不思議よね」
「そうだな。それでだ」
「ええ」
「このカツだが」
今食べているのは鱧だった。それもソースに浸けてそれから食べる。
「いいな、やはり」
「そうよね。美味しいわよね」
未久は貝を食べている。食べながら満足した顔になっている。
「これもね」
「そうだな。だが」
「だが?」
「この味が大阪にしかないのはな」
「そうよね、それは残念よね」
「昨日食べたものも同じだ」
それもだというのだ。
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