第三十五話 瞑想その四
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「キャベツも食べないとね」
「胸焼けするからな」
「何でだろうね」
未久も食べながら話す。
「これを食べたら胸焼けしないのは」
「さてな。だが肉ばかり食べてもだ」
「身体によくないし」
「油気の強いものばかりでもな」
「そうよね。だからね」
こう話すのだった。
「だから野菜もね」
「食べないと駄目だ」
「お兄ちゃんってそういえば」
未久はそのキャベツと串カツを交互に食べながら話す。
「あれよね。野菜もたっぷり食べるよね」
「バランスよく多くだ」
牧村は言った。
「そう食べないと駄目だ」
「バランスよくね」
「量も多くだ」
量にも考えを及ばさせていた。
「それも考えている」
「まあ私はね」
ここで自分のことを話す未久だった。
「幸い太らない体質だから量は気にしなくていいけれど」
「そうか」
「そう、それはね」
いいというのである。
「大丈夫だけれど」
「だがバランスはだ」
「それを考えていかないと駄目なの」
「スポーツをするからにはな」
それではというのだ。
「しっかりとな」
「そうよね。そういえばよ」
「どうした?」
「ほら、あの死んだあいつ」
「あの屑か」
この前死神が地獄に送ったその教師だ。二人の間ではそれで通じる話になっていた。これは二人だけでなく中学校全体においてそうだった。
「あいつはそれは全くだったな」
「もうデブデブでね」
未久は嫌悪感を露わにして話す。
「あれで他人には減量しろとか言っていたし」
「あいつは馬鹿だった」
牧村も忌々しげに言い捨てる。
「自分がわかっていなかった、全くな」
「もうね。酒も煙草もだし」
「そもそもそこから節制ができていなかったな」
「もう皆大嫌いだったわよ」
死んでからもこう言われる。見事な人望だ。だが教師という職業にはこうした卑しい人物が多いというのもまた事実である。嘆かわしいことにだ。
「あいつだけはね」
「だがあいつでもだ」
「あいつでも?」
「一つだけ人の役に立てる」
「あんな奴が?」
未久は兄の言葉に眉をしかめさせて問い返す。
「何の役に立ってきたのよ。体罰や罵倒ばかりで威張り散らしていたのに」
「反面教師だ」
それだというのだ。
「それでだ」
「反面教師なの」
「そうだ。ああいう人間にはなるまいと思うな」
「ええ、それはね」
当然だというのだった。
「誰だって思うわよ。人間と見なせない位ね」
「そうだな。それだ」
「反面教師ね」
「あいつはそれだ」
まさにそれだというのだ。
「他人の反面教師になるべき輩だ」
「死んでもなのね」
「そうだ。人はあいつを見てああはなるまいと思う」
牧村は冷徹に妹に対して述べる。
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