SAO編
三十五話 それはいつも唐突に
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くなって行き、周りから攻撃を受ける回数が増えて行く。
HPが、サチの命の残量が確実に減って行くのが、サチにもキリトにも分かった。
このままで行けば、確実に自分は死ぬのだろう。と、サチはどうしようもなくそう悟らざるを得なくなる。
それはサチにとって恐怖以外の何物でも無く、考えるだけで悲鳴を上げそうになるし、涙だって今にも溢れ出しそうだ。
しかし、「死」が目の前に迫るこの状況の中で、サチの妙に冷静な部分は、こうも考えていた。
自分は死ぬ。ならば、キリトに伝えなくてはならない。
眼の前で、自分のために必死になって剣を振り続ける。この、とても優しい少年に……貴方のせいではないと。
自分に生きる意志が足りなかったからこんな事になったのだと。
SAOで生きるために必要な事。自分が見つけた答え。「生き残ると言う意思」が自分に足りなかっただけなのだと。
この少年が自分の弱さのせいで、彼自身を責めないように。
彼自身の生すらも諦めてしまわぬように。
彼の優しさで、もっとたくさんの人が救われるのだから。
ただ……「生きてほしい」と、伝えなくてはならない。
キリトの眼を真っ直ぐに見て、手を伸ばそうと右手を動かす。
その時、ひときわ大きな斧型の武器を持った豚鼻のモンスターが、赤い眼を輝かせて、得物を振り上げるのが視界の端にちらりと見えた。
──死ぬ
考えるまでも無く、それが分かった。自分のHPはすでに赤の危険域にまで割り込んでいる。
今、あんないかにも威力の高そうな攻撃を受ければ、自分のHPは間違いなく0になるだろう。
即ち、死ぬのだ。
諦めた途端、恐怖を感じつつも、冷静な自分が意識の中で妙に肥大する。
とたんにふと、一人の青年の顔が頭に浮かぶ。
自分がまだ何も知らなかった時に出会い。何時からかずっと、心の中何処かで思い続けて来た、一人の青年の姿。
モンスターの腕に、力がこもる。
久しぶりに会えた時嬉しかった、でもこんな世界で有ってしまった事がどこか悲しくて、けれどそれよりも同じ世界に彼がいる事で、何処か安心した。
そして……その日の夜、色々な気持ちがごちゃ混ぜになった涙を流した。
キリトの眼が絶望に染まる。サチは、口を開く。
いずれ自分が死んでしまうだろうことは、自分でも感じていたのに……後悔するのなら、もっとたくさん話しておけばよかっただろうか……?
不思議な物だと思う。あれだけ怖かった死が目の前に有ると言うのに、あの顔を思い浮かべているとその怖さが殆ど無い。
『あ……やっぱり私、本当に駄目だ……』
今更になって……この世界で、絶対に生き残りたいと思えるなんて。
鉄の凶暴な輝きを持った銀閃が、空気を切り裂いた。
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