第三十四話 祖父その十
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そこに入るとだ。和風の内装はごく普通の甘味処である。しかし出されるその善哉が他の場所のものとは少し違っているのだった。
「これよね」
「そうだ、二つだ」
「そうそう、それで夫婦善哉なのよね」
未久は二つ並んで置かれているその善哉を見ながら楽しげに話す。
「これがなのよね」
「二つ並んでいると量が多く見える」
牧村はここでこうも話した。
「そう書いてあったな」
「その織田作之助の小説にはね」
「いいアイディアだ。そして味もだ」
「これも美味しいわ」
それを食べながらの言葉だ。
「やっぱり」
「さて、これを食べたらだ」
「終わりね」
「北極に行くか」
「えっ、まだ食べるの」
「アイスキャンデーを食べる」
何とまだ食べるというのである。
「それもだ。いいな」
「ううん、またかなり食べるわね」
「大阪に来たらまず食べることだ」
それを当然だという牧村だった。
「大阪だからだ」
「大阪だからなのね」
「そういうことだ。とはいっても」
「とはいっても?」
「食べ忘れたものがあった。それも食べておこう」
この期に及んでまだ言うのだった。
「きつねうどんだ」
「って待ってよ」
流石にもう一品話に出ると未久も言葉を止めた。
「アイスキャンデーだけならともかく」
「大丈夫だ。ぎりぎりの筈だ」
「うっ、私の胃のスペースわかってるの?」
「おおよそな。善哉ときつねうどんの後でアイスキャンデーはいけるな」
「本当にぎりぎりだけれどね」
それでもいけるというのは事実であった。
「いけるわよ」
「なら行くぞ。いいな」
「やれやれ。食べるのも戦いね」
未久はその善哉を食べながらぽつりと言った。
「全く」
「戦いか」
「だって凄い量食べてるわよ」
未久は苦笑いする声で述べた。
「もう相当ね」
「そうだな。食べるのもまた戦いだな」
しかしであった。牧村はここであることを思い出しその中に浸ったのである。それは言うまでもなく髑髏天使としての戦いのことであった。
「あれと同じだ」
「どうしたのよ、急に」
未久は兄の様子が変わったことを見逃さなかった。
「何か様子が変わったけれど」
「何でもない」
「そうは見えないけれど?」
「そうか」
「そうよ。どうしたのよ本当に」
怪訝な顔で兄に問い続ける。
「何があったのよ」
「何がか。そうだな」
「そうだな?その続きは?」
「必死にしなければできないな」
「食べることも必死になの」
「そうだな。そしてそれは」
牧村の言葉は続く。だがそれは妹に向けているものではなく自分に向けているものだ。それを言っていくのであった。
「人間のものだな」
「人間のなのね」
「そうだ。人間のだ」
それだというの
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