第三十四話 祖父その九
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「だが、カレーは確かに残っている」
「死んでもう六十年以上経ってるのにね」
「この店のカレーはその時の味がそのまま残っている」
そのわりかし狭い店の中を見回りながらの言葉だった。
「あの夫婦善哉の時の味がな」
「あっ、来たわ」
こんな話をしているとであった。そのカレーが来た。既に御飯とルーを一緒にしてありその中央にくぼみを作って生卵を入れている。それがこの店のカレーであった。
「これよね」
「この店ではインディアンという」
「インディアンなの」
「普通のカレーは別カレーという」
このことも妹に話す。二人は席に向かい合って座りそのうえで話をしているのだ。
「そう呼ばれている」
「この店独特なのね」
「そうだ。そして味もだ」
「独特なのね」
「食べればわかる」
言いながらそのカレーの卵のところにソースを入れる。そのうえでその卵とソースごとカレーをかき混ぜてである。カレーを食べはじめるのであった。
未久もそれは同じだ。そして実際に食べてみると。
「あっ、これって」
「どうだ?」
「美味しい」
未久はそのかき混ぜたカレーを食べてすぐにこう言った。食べた瞬間にもう目が丸くなっている。
「ここのカレー美味しいのね」
「そうだ。これがそのまま昔から残っている」
「織田作之助の時代からなのね」
「そのままの味だ」
「成程ね。これがなのね」
未久はそのカレーを食べながらまた言う。
「美味しさはそのままなの」
「街も人も味も変わるものだ」
つまり全てが変わるのだという。
「だが。こうしてだ」
「変わらないものもあったりして」
「だからいいのだ」
いいとまで言った。
「世の中もな」
「そうよね。それにしても」
「何だ?」
「今日私達随分食べてるわよね」
笑ってこう言う未久だった。
「ラーメンにお好み焼きにたこ焼きにこのカレーで」
「まだある」
「善哉もよね」
「餃子か肉饅かどれがいいか」
今度はこれを話に出してきた。
「どちらがいい」
「どちらがって?」
「だからだ。どちらを食べる」
問うのはこのことだった。どちらにしろ食べるというのだ。
「餃子か肉饅か」
「何でその話になるの?」
「蓬莱だ」
牧村が今度話に出してきたのはそれだった。
「蓬莱に行くぞ」
「蓬莱っていったら」
「名前は聞いたことがあるな」
「豚饅売ってるお店よね」
「そうだ。次はそこに行く」
「それも食べるの」
「入るな」
最早入ることが前提の話だった。
「まだ」
「まあね。育ち盛りだし」
量を食べることについては何の問題もないのだという。
「そっちは」
「では食べ終わったら行くぞ」
「ええ、わかったわ」
こうして話は決まった。また食べることに
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