第三十四話 祖父その六
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「それなの」
「何故そこで横文字が出るのだ」
家に向かって歩きながらの話だ。当然牧村もいる。
「そこでだ」
「そこでって。よくその名前で売ってるけれど」
未久はこう祖父に話す。
「駅のキオスクとかで」
「それで覚えたのか」
「それよね、グリーンティーって」
「茶道の茶だが」
だが祖父はそれだと残念そうな口調で言うのだった。
「そちらでは覚えていないか」
「何時の時代の話よ。っていうか」
ここで未久はさらに話すのだった。
「お爺ちゃんってまだ八十いってないわよね」
「うむ、そうだ」
「じゃあ戦前とかそんなに知らない筈だけれど」
「かつては海軍に入りたかった」
何気に己の若い時の夢も話している。
「兵学校にな」
「兵学校か」
ここでようやく口を開いた牧村だった。
「そこだったのか」
「来期なら入られたな」
祖父は牧村に顔を向けて述べた。信頼する者への微笑みと共の言葉だった。
「そして海軍でやっていけた」
「そうなのか」
「心がそうなっているからだ。海軍に相応しい」
「だといいがな」
「では。まずは入ろう」
そうした話をしているうちに門から屋敷までの道を歩いてしまっていた。そこまでの長さは結構なものがあった。庭も立派なものである。
「それでいいな」
「そうさせてもらう。緑茶か」
「お菓子は?」
未久はそれも聞いてきた。
「お菓子はあるの?」
「ある。しかしだ」
「しかし?」
「未久は本当に変わらないな」
家の門の前での言葉であった。
「全く。背だけでなく心も子供か」
「だから背の話はもういいわよ」
いい加減うんざりとした口調になっている。
「とにかく。お婆ちゃんも元気よね」
「薙刀九段、それに合気道六段」
祖父はこんなことを言ってもきた。
「そうそう容易なことでは倒れはせん」
「そういうお爺ちゃんは剣道九段よね」
「うむ」
「それに柔道八段だったわね」
「どちらもいいものだ」
祖父は静かだが確かな口調で述べた。
「やはり武道はいいものだ」
「そんなにいいの?」
「いいが御前は体操の方がいいのだな」
「うん、武道も悪くないと思うけれど」
それでもだというのである。
「やっぱり私にはそっちの方が合ってるから」
「だが来期は違うな」
「学ばせてもらいたい」
こう祖父に言った。
「それではだ」
「うむ、それではだ」
「頼む」
「そうさせてもらう。それではだ」
こうして彼は祖父の下で心を学ぶことになった。この日はお茶を飲んでから大阪に出た。向かう場所は難波だった。その賑やかな街と未久と共に歩く。
これは彼女の希望である。まずは大阪を見て回りたかったのだ。
「しかしな」
「どうしたの?お兄ちゃん」
「御
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