第三十二話 変貌その七
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「だからね。体操だとね」
「小さいままになるのだな」
「そういうこと。それにしても」
「今度は何だ」
「私確かに低いのよね」
ふう、と溜息になっていた。
「お兄ちゃんは大きいのにね」
「男と女では背が違う」
「せめて若奈さん位になればいいのに」
「私だって小さいけれど」
その若奈の言葉だ。実際に彼女も一五〇程度しかない。だが未久はそれと比べてもまだ小さい。一四六程度しかないのである。
「多分それ以上は」
「伸びないかしら」
「女の子は中学生じゃもう成長が止まるから」
「じゃあ本当にこのままなの」
「多分」
言いにくい言葉を言っているという自覚はあるのだった。
「だからね」
「困ったなあってなるわ。子供の頃は江角マキコさんみたいになるって思っていたのにそれがこんなに小さいままだもの」
「背は気にするな」
その背の高い兄の言葉である。
「コンプレックスに感じることもない」
「感じるわよ。それはお兄ちゃんが大きいから言えるのよ」
「牧村君私の頭の天辺見えるわよね」
「見える」
若奈の問いにも答える。
「隣に立って覗けばな」
「それが一番嫌なのよ。私昔から小さくて」
「ですよねえ。小さいと何か」
「小さいなら小さいでいい」
だが彼の言葉はこうしたままだった。
「世の中はそれでいい」
「まあそこまで言うんなら」
「出来るだけ気にしないようにするわ」
とはいっても二人の顔は浮かないままである。
「それでとにかく」
「ジェットコースターか」
「そう、それ」
遊園地のことに話が戻った。
「早く行って来なさいよ。私は待ってるから」
「わかった。それではだ」
「行って来るわね」
「たまにはこうしたサービスをしないと」
未久は笑いながら話す。
「若奈さんが可哀想よ」
「ちょっと未久ちゃん」
若奈は今の彼女の言葉に顔を赤らめさせて返した。
「そんなこと言ったら」
「いいんですよ。うちの兄貴はですね」
しかし彼女はその若奈の耳元で囁くのだった。
「滅多なことじゃわかりませんから」
「鋭いのに?」
「こういうことには鈍いですから」
こう言うのである。
「ですから」
「そうなのよね。それはね」
「そうでしょ?ですから」
「一応どういう関係なのかはわかってくれてるみたいだけれど」
「仲はそのままですよね」
「ええ」
残念な顔で頷いたのがその証拠だった。
「そうなの」
「仲は自然に進むものじゃないですよ」
未久はこうも言った。
「自分からですね」
「勧めるものなのね」
「はい」
にこりと笑っての言葉だった。
「ですから」
「わかったわ。それじゃあね」
「応援してますから」
明らかに彼女の方に立った言葉だった。
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