第三十一話 赤眼その五
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「あまりにも強い力じゃ。コントロールできなかったり飲み込まれたりすれば厄介なことになってしまうかも知れんのう」
「厄介なことか」
「ひょっとしたらじゃがな」
こうした前提は置いていてもそれでも話すのであった。
「そのことも注意しておいてくれ」
「わかった」
牧村も頷きはした。
「それではな」
「とにかく智天使については殆どわかってはおらんのじゃ」
「まだまだか」
「左様。少し待っていてくれ」
「わかった。ではそうさせてもらう」
「そしてじゃ」
博士はここまで話したところで話題を変えてきた。
「今日のお菓子じゃが」
「今日は何だ?」
「支那のものじゃが」
随分と古いと言える言葉を出してきたのだった。
「月餅じゃ」
「支那か」
牧村が最初に反応したのはこのことだった。
「また随分と古い呼び方だな」
「少し使ってみた」
「それだけか」
「特に他意はない。ついでに言えば悪意もない」
「別にそう断らなくてもいいと思うが」
「何かと五月蝿いのがいるからじゃ」
それを今の言葉の理由とするのだった。
「やれそれは差別用語だの言ってはいけないだのとのう」
「別に今の言葉は差別用語でもないのではないのか?」
「無論違う」
それはきっぱりと否定した博士だった。
「例えば英語ではチャイナと呼ぶな」
「陶器が語源だったがな」
「茶という者もおるようじゃがな。まあとにかくじゃ」
「そこから来た言葉で差別用語ではないな」
「秦が支那になったという話もある」
言うまでもなく中国の統一王朝の一つである。あの始皇帝の秦である。なお秦は彼が築いたのではない。遥か春秋時代より存在している国である。
「とにかくじゃ。仇名みたいなものでもあって」
「差別用語ではないな」
「左様、わしにしろ中国と呼ぶのが普通じゃがな」
「またあえて使ってみたのだな」
「使ってみたくなったのじゃよ」
「たまたまだな」
博士の悪戯心によるものだと察したのである。ささやかな悪戯心である。
「それは」
「左様じゃよ。それでじゃ」
「中国の菓子か」
「うむ、その中国のじゃ」
ここでは中国と言ってみせたのである。
「その月餅じゃ」
「美味いのか、それで」
「美味い」
今度の言葉は断言であった。
「何しろ中華街で買って来たやつじゃからな」
「神戸のか」
「あの中華街はよい」
にんまりと笑いながらの言葉だった。髭が自然と動いている。
「何を食っても美味い」
「時々行っているのか」
「時々どころではないな」
それには留まらないというのだった。
「それこそ最近は特にな」
「しょっちゅうか」
「行っておるよ。やはりいい場所じゃ」
それを言うのである。
「何しろ麺類も飲茶も炒飯も
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