第三十一話 赤眼その二
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「顔は四つじゃ」
「顔もか」
「人に鷲に獅子に牛じゃ」
その四つだという。
「それぞれが持っている力を表しておるのじゃ」
「そうなのか」
「こうした姿になっておる」
「まさに異形だな」
「その力もじゃよ」
それもだというのである。
「まさに異形の天使じゃ。少なくとも人間とはかけ離れてしまってきておる」
「人間とか」
「まだ智天使についてはわしもよく知らん」
博士は髑髏天使の階級としての智天使にはこう述べたのだった。
「これから調べるからのう」
「済まないな」
「だが」
しかしであった。ここで不意に言うのであった。
「その力はじゃ」
「力は」
「これまでの天使の比ではない」
「それはわかるのか」
「文献に出ておった」
こう牧村に話す。その前には今度は羊皮紙の分厚い本があった。まるで辞書の様に分厚い。その本を前に置いてそのうえで話すのである。
「この本にじゃ」
「今度は何処の本だ」
「スペインの本じゃ」
「スペインか」
「そう、スペインじゃ」
まさしくその国だという。
「スペインの本なのじゃ。カスティーリャの頃じゃな」
「カスティーリャというとだ」
「あの国の統一前じゃ」
その頃だという。スペインはカスティーリャとアラゴンが連合してできた国である。そうして一国になり現在のスペインになったというわけである。
「その時の本じゃ」
「何世紀の本だ、それで」
「十四世紀じゃな」
その頃だという。
「その時の本じゃ」
「結構古いな」
「古いぞ。文字はラテン語じゃ」
「ラテン語も読めたな」
「言語も得意分野じゃぞ」
言いながらその本を開いてみせる。手書きでかなり古い文字なのがわかる。その古ぼけた羊皮紙にその文字が細かく書かれていた。
博士はその本を開きながらだ。牧村にこう言ってきた。
「この文字がまたな」
「読みにくいか」
「書かれていることも文章が下手でじゃ」
首を振りながらの言葉である。
「それにじゃ」
「文章だけではないのか」
「やたらと小難しい言葉ばかり使っておる」
「理解しにくいか」
「ラテン語を知っている者でも難しい」
今度は苦笑いしながら述べた。
「おまけに文字まで汚い」
「最悪なのか」
「読むのが難しい。極めてな」
「文章や単語だけでなくか」
「その二つもじゃ」
ここで日本のある作家を話に出してきた。その作家は。
「大江健三郎の文章じゃな」
「大江か」
「そうじゃ。大江じゃ」
それだというのである。
「あそこまで難しい、大江の小説はただ難しいだけじゃがな」
「大江は嫌いか」
「大嫌いじゃ」
はっきりと言い切る博士であった。
「ついでに言えば吉本隆明も嫌いじゃ」
「あの男もか」
「どちら
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