第三十話 智天その二十
[8]前話 [2]次話
「このままだ」
「私が死ぬというのか。死神である私が」
「神もまた死ぬ」
魔物はその冷然たる現実を告げた。
「だからこそだ」
「それは事実だ。だが」
「だが?」
「私が死ぬのは今ではない」
着地しながらの言葉である。ゆうるりとした着地である。
「少なくともだ」
「私に倒されることはないか」
「決してな」
今度は断言であった。
「それは言っておく」
「自信だな」
魔物はその彼のことばを聞いて述べた。
「そうとしか言い様がない」
「その通りだ。私には自信がある」
そのことを自分から言いもする。
「貴様に倒されず。それに」
「それに?」
「貴様を倒す自信がある」
「確かにだな」
「そうでなければ言いはしない」
実際に自信に満ちた言葉になっていた。
「何があろうともだ」
「ではだ」
「では?何だ」
「あらためて問おう」
声だけである。やはり姿は隠されている。そのプールの床の中に潜り込んで、である。
「どうやって私を倒すのだ」
「それか」
「貴様は床の中に入ることはできない筈だ」
「如何にも」
ここでもありのままに話す死神だった。
「私はその術は知らない」
「そうだな」
「水の中で自由に動くことはできてもだ」
「それはできないな」
「それはその通りだ」
このことは認めるのである。
「しかしだ」
「しかし?」
「それでも貴様を倒すことはできる」
言葉は動かなかった。不動のままである。
「必ずだ」
「面白いことを言うものだ」
こうは言ってもその声は笑っていなかった。真剣なものである。
「死神というものはだ」
「面白いというのか」
「そうだ。私の世界に入らずに私を倒すというのだからな」
「その言葉の通りだ」
「何っ!?」
「私の言いたいことはそれだ」
今の魔物の言葉に対してであった。
「それこそがだ」
「どういうことだ」
「来い」
今は答えずに誘うだけであった。
「来ればそれでわかる」
「わかるというのか、それで」
「知りたいのならば来ることだ」
場所も動かない。両手でその大鎌を持ったままである。そのうえで床の中にその姿を隠している魔物に対して告げるのである。
「それでわかる」
「その言葉確かに聞いた」
魔物もこう返すのだった。
「訂正するつもりはないな」
「ない」
今度は僅かな言葉で、かつ完全に否定してみせた。
「何があろうともだ」
「そうか。それならばだ」
声が動いた。そして気配も。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ