第三十話 智天その十
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「百十歳は超えているような」
「百十歳か」
「凄いな」
「そんなに生きているのか、あの人」
皆それを聞いて思わず唸った。そうなるだけのものが確かにある。
「それであんなにしっかりと動けるしな」
「声だって大きいしな」
「背筋だってしっかりしてるしな」
「歯も一本も抜けていない」
牧村はこのことも言い加えた。
「一本もだ」
「百十歳でか」
「余計に凄いよな」
「全くだ」
話をしている誰もが驚いていた。
「普通百歳ってな」
「いや、そこまで生きるだけでもな」
「そうだよな」
一口に百歳といえどもであった。
「その前に老衰で死んだりするからな」
「八十超えたらな」
「それも不思議じゃないからな」
「だよな」
所謂天寿というものである。それをまっとう出来る人間は確かに幸せである。
「滅多にいないからな」
「そうだよな」
「それであれか」
「百十歳で」
「本当に人間なのかね」
こんな言葉も出て来た。
「あれで」
「だよなあ。冗談抜きにな」
「悪魔に魂を売ったとか」
「不老不死の薬飲んだとかな」
「そういうのじゃないのか?」
多くの者の博士の見方そのものであった。とかく常人には思われていなかったのだ。それはやはりその高齢から来るものであった。
「それか仙人とかな」
「そういう感じだよな」
「なあ牧村」
そしてまた彼に問うてきたのであった。
「実際どうなんだ?あの人」
「仙人なのか?」
「それとも悪魔か?」
「錬金術でもやっているのか?」
一つ答えが入っていた。しかし牧村はその答えにも答えようともせず。あえて博士のその長寿についてだけ語ったのであった。
「それはだ」
「ああ、それは」
「どうなんだ?それで」
「仙人か?それとも」
「本当に悪魔に魂を」
「ただ長生きなだけだ」
博士のその真実だけを話すのであった。
「そして健康なだけだ」
「おい、それだけかよ」
「それだけなのかよ」
「そうだ。それだけだ」
あらためて言う彼だった。
「博士はそれだけだ」
「本当か?それって」
「ただ長生きだけなのか?」
しかしであった。皆それをそう簡単には信じようとはしなかった。何しろ百十歳を超えてそれでも教壇にいるというのは有り得ないことだからである。
「あれで」
「それだけか」
「それだけだ」
牧村は素っ気無く答えた。やはり錬金術のことは話さない。もっとも博士は錬金術を自分の為にはまだ使ってはいないのであるが。
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