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髑髏天使
第三十話 智天その五

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「日本人の口には合わないのう」
「何かそういうのばかりだよね」
「イギリスのものって」
「あまりお勧めはせん」
 また言う彼だった。
「それを食べるのはのう」
「何かあの辺りってさ」
「本当に美味しいものはないよね」
「全くね」
「少なくとも日本人には合わん」
 博士はこうした言葉を繰り返す。
「じゃからお勧めはせん」
「そうなんだ。まあ美味しくないんならね」
「別にいいよ。それなら」
「そうそう」
 妖怪達の返答は実に淡白で素っ気無いものであった。まるで興味がないといったような口調でそれぞれの口で話をしていくのであった。
「まあそれでだけれどね」
「食べ物だけれど」
「このプティングはいいね」
「本当にね」
 それはいいというのである。
「このプティングはね」
「お菓子のプティングはね」
「カスタードプティングだな」
 牧村がそのプティングを食べながら述べた。
「これは」
「プティングでも色々なんだね」
「イギリス料理って」
「もっと言えばプティングの他はこれといって種類もない」
 牧村の言葉もかなり辛辣ではある。
「実際な」
「何かねえ、それって」
「物凄く寂しいけれど」
「本当に長い間繁栄していたの?」
 こんな言葉まで出された。
「明治の頃なんてさ、日本から見たイギリスなんてね」
「そうそう、物凄い国だったよね」
「もう仰ぎ見るばかりのね」
「そういう頃もあったのう」
 博士もそれを聞いて述べた。
「わしの子供の頃や中年の頃まではそうじゃった」
「第二次世界大戦の頃まではか」
 牧村が博士に対してまた述べた。
「その辺りまでか」
「そうじゃ。あの頃から今を考えるとじゃ」
「全然違うか」
「最早別の国じゃな」
 そこまで言うのであった。
「もっともじゃ」
「もっとも?」
「あの頃から料理はまずかった」
 そうだったというのである。
「とてもじゃ」
「イギリスに行っていたこともあるのか」
「オックスフォードとケンブリッジにおった」
 ここでまた話される博士の過去だった。
「思えば懐かしい頃じゃ」
「それは一体何年前?」
「何十年位前なの?」
「わしが二十代の頃じゃが」
 それだけでかなり昔の話なのがわかることであった。何しろ百歳は優に超えている博士だからである、それはもうかなりの昔のことである。
「さて。八十年以上昔じゃ」
「ええと、第一次世界大戦の後?」
「その辺り?」
「まだソ連ができたばかりじゃったかな」
 博士は己の記憶を辿りながら述べた。
「それでナチスが新聞に載ることもない頃じゃった」
「それだけ昔だったんですね」
「その頃はまだイギリスも力があったのじゃ」
 自分の後ろに来たろく子にも話す。
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