第二十九話 小男その十九
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「それでは今から戻るか」
「そうするのだな」
「音楽はいい」
そして彼は言った。
「聴いているとそれだけで得られるものがある」
「だから聴くのか」
「そうだ。貴様はどうなのだ?」
「俺は楽しいから聴く」
それだけだというのである。
「人はそうだ」
「そうか。人と神とではだ」
「そういうところが違うようだな」
「しかし求めるものは同じだ」
それは同じだというのである。
「そして得られるものもだ」
「同じだというのか」
「表現する言葉が違うだけだ」
あくまでそれだけだという。
「それだけのことだ」
「そういうものか」
「そうだ。ではそろそろはじまるな」
アリーナを見ながら話す彼だった。
「それではな」
「では行くか」
こうして二人は会場に戻った。そこに戻ると若奈はそのまま席にいた。そうして隣に戻って来た彼に対して声をかけてきたのであった。
「遅かったじゃない」
「そうか。遅かったか」
「トイレなのよね」
「そうだ」
こういうことにした。闘いのことも魔神のことも言える筈もなかった。
そういうことにしてであった。また言う彼だった。
「まだはじまっていないのだな」
「これからね」
若奈はそれはこれからだと返した。
「これからよ、それは」
「そうか」
「ほら、見てよ」
そうしてステージを指差して彼に言ってきた。
「そろそろメンバーが出て来たじゃない」
「それではか」
「そう、本当にこれからよ」
まさにこれからだというのである。
「丁度いいタイミングだったわね」
「それでは今から聴くか」
「楽しみましょう。いや、実際ね」
「実際。何だ?」
「このグループってやっぱり生で聴くのが一番らしいのよね」
にこにことした顔で語る若奈であった。
「だから楽しみなのよね」
「それでなのか」
「そうよ。それじゃあ牧村君もね」
「ああ、俺も」
「楽しんで聴くわよね」
「勿論だ」
顔も声もいつもと変わらない。しかしそれでも言うのであった。
「それはな」
「それじゃあこのまま楽しみましょう」
「コンサートはこれからか」
「はい、これ」
若奈は今度は何かを彼に手渡してきた。それは。
「コーラとお菓子よ」
「中で買ったものか」
「違うわ。持って来たものよ」
それだというのである。
「だって中で買ったら高いじゃない」
「確かにな」
「だから買わないのよ」
それでだというのであった。
「中じゃね」
「節約か」
「そうよ。まあアリーナには入場料で貢献するとしてね」
「それはそれでか」
「で、食べ物はね」
また言う若奈であった。
「自分で持って来てよ」
「そうか。わかった」
「たっぷりあるからね」
「そんなにあるのか
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