第二十八話 監視その九
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「それをだ」
「わかったわ、タルトね」
「ああ」
また若奈に対して頷いてみせる。
「それを頼む」
「そういえば牧村君ってタルト好きよね」
「嫌いじゃない」
そしてそれを否定しないのだった。
「ケーキもな」
「そうよね。ケーキもね」
「ホットケーキも好きだ」
所謂パンケーキもだというのだ。
「それもな」
「つまり甘いものなら何でも結構いけるのね」
「ただし味には五月蝿いつもりだ」
それはあるのだという。
「好きなだけにな」
「成程ね。じゃあ牧村君の舌に合うだけのタルトをね」
「出してくれるか」
「勿論よ」
にこりと笑って話す若奈だった。
「それじゃあね」
「さくらんぼのをな」
そのタルトを頼んでそれを楽しんで。今はそうした時間を過ごす彼だった。
そして店を出るとサイドカーに乗り妹の未久のところに向かう。するとそこで。
横に一台のハーレーが来た。そこに乗っているヘルメットの男は。
「貴様か」
「私が来たということはだ」
「わかってるよね」
死神だけでなく目玉も出て来た。そのうえで彼に言ってきたのである。
「暫く振りだね」
「会うつもりはなかった」
「悪いけれどそっちにはそのつもりはなくてもね」
「我々にはある」
死神がここでまた言ってきた。
「それはだ」
「闘いのことだけれど」
「今からか」
牧村は彼等の方を振り向くことなく問い返した。
「魔物が待っているのか」
「いや、今からではない」
「夜にね」
目玉はその時間も彼に話してきた。
「夜になるけれどね」
「そうか、夜か」
「夜に河でだ」
死神は場所を話した。
「河川敷に来るのだ」
「そうか。あの橋のすぐ側だな」
「貴様はあの河の中でも橋のところでも魔物と闘ったことがあったな」
「そういえばそうだったな」
その時のことを思い出しながらの言葉である。
「そんなこともあった」
「その河川敷にだ。今夜だ」
「時間は夜か」
「八時半だ」
その時間だというのだ。
「その時間に来ることだ」
「わかった。それならだ」
彼もいいというのだった。
「行かせてもらう」
「納得したと見ていいのだな」
「その通りだ。納得した」
そのことをそのまま話してみせもする。
「その時間でだ」
「ならば楽しみにしている」
死神はここまで告げるとであった。
静かにバイクを前に出して。先に出るのであった。
「私が言うのはこれまでだ」
「じゃあ今夜ね」
「今話すのはそれだけか」
「これを伝えたかっただけだ」
あくまでそれだけだというのだ。相変わらず素っ気無いものだった。夕方の道の中で。周りの車のことを一切見ない世界での話であった。
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