第二十八話 監視その五
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「それでなのか」
「それでお茶の味が心配だったけれど」
「いい。ただ」
「ただ?」
「同じ種類の茶の葉でも違うな」
牧村が今言うことはこのことだった。
「店が違えば」
「保存方法とか畑とかで違ってくるのよ」
「それでか」
「そうなのよ。お茶は繊細だから」
話が専門的なものになっていた。流石に喫茶店の娘だけはありそうしたことには熟知しているのだった。
「そういうことだけで違うのよ」
「では今俺が飲んでいる茶は」
「いい畑でいい保存をしていて」
そういう茶だというのだ。
「それで作られたものだから」
「それで味が違うのか」
「そういうことなのよ。それでね」
ここでさらに身を乗り出して言ってきた若奈だった。
「凄いお茶も手に入ったのよ」
「凄いか」
「イギリス王家で飲まれているお茶よ」
「イギリス王家か」
「これは凄いわよ」
その優しい顔の笑みが満面としたものになっていた。
「もうね。味が全然別よ」
「それだけ凄いのか」
「飲んでみる?」
牧村に対してさらに声をかける。
「一度飲んだら忘れられない味になるけれど」
「そうだな。それでは」
「それでは?」
「飲ませてくれ」
こう答える彼だった。
「そのお茶をな」
「わかったわ。じゃあ」
丁度今飲んでいる茶を飲み終えた彼に応えてだった。
すぐに茶を淹れはじめる。そうしながらまた彼に言ってきた。
「あのね、牧村君」
「その茶のことか」
「それだけじゃなくて」
話を微妙に変えてきていた。牧村に気付かれないようにだ。
「あのね、今私一人で淹れているじゃない」
「お茶をだな」
「ええ。けれど何時かは」
言葉を慎重に選びながら出していた。
「二人で淹れたいなって思っているけれど」
「俺もお茶を淹れるのは好きだ」
今の若奈の言葉にこう返した牧村だった。
「コーヒーもだ」
「そういうのも得意だったわよね」
「菓子を作るのもな」
それもである。そうした趣味も持っているのである。
「得意だ」
「じゃあ丁度いいわね」
若奈はそうした一連の言葉を聞いてあらためて頷いた。
「それじゃあ」
「どうだというのだ、それで」
「一人より二人だからね」
言葉に照れが入ってきていた。それは隠せなかった。
「やっぱり」
「二人か」
「お茶もコーヒーも二人で淹れた方が美味しくないかしら」
若奈はまた言ってきた。
「お菓子を作るのも」
「そうだな。では今度は二人でな」
「そうしましょう。それでね」
「そうするか。そうだ」
ここでふと気付いた声も出した。
「あいつも入れるか」
「あいつって?」
「未久だ」
妹である。彼女の名前をここで出したのだった。
「あいつもそういうことを覚え
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