第二十八話 監視その二
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「今日の紅茶はどうかな」
「紅茶ですか」
「葉がね。これがね」
「これは」
「セイロンだよ」
それだというのである。
「セイロンの葉だけれど」
「コーヒーだけではなくてですが」
「コーヒーも確かに奥が深いよ」
マスターもそれは言う。コーヒーもだ。
「そして紅茶もね」
「紅茶もですか」
「そう、紅茶も重要なんだよ」
それもだというのだ。彼はそこまで見ているのだった。
「喫茶店というのも奥が深いんだよ」
「成程」
「君には絶対に覚えてもらわないと」
マスターの言葉はここでかなり強いものになった。
「絶対になんだよ。わかるかな」
「絶対ですか」
「当たり前じゃないか。何しろ君は」
「ちょっとお父さん」
しかしであった。ここで店の奥から女の子の声がしてきた。それと共にであった。
若奈が来たのであった。そのうえで父に言ってきた。それと共に店に出て来た。
「何言ってるのよ、一体」
「ああ若奈、帰ってたのか」
「ああ、じゃないわよ」
そのむっとした顔で言う若奈だった。言いながらすぐに牧村のすぐ前に来た。
「全く。変なこと言って」
「変なことじゃないだろ、別に」
「何でそう言えるのよ」
「御前あれだろう?これから」
「これからって?」
「一緒になるんだろう?」
笑いながら娘に話すのだった。すっかり父に負けてしまっている。
「だったらいいじゃないか」
「何時そうなったのよ」
「それで何時なんだ」
笑ったままさらに娘に話すのだった。
「何時式を挙げるんだ」
「式?」
「何でもないわよ」
慌てながら牧村に対しても言うのだった。
「お父さんが勝手にふざけてるだけだから」
「ふざけてるのか」
「そうよ。ふざけてなくて何なのよ」
何とかそうしようとしている。彼女も必死である。
「こんなこと言うこと自体が」
「話がよくわからないが」
ところが彼は話を聞いてもこう言うだけであった。
「何が何なのかな」
「あっ、そうなの」
それを言われて少し落ち着いた顔になる若奈だった。
「そうだったの」
「どういうことだ?」
「何でもないわ」
落ち着きを取り戻しながらの言葉だった。
「気にしないで」
「だったらいいがな」
「それでお父さん」
すぐに父にも言ってきたのだった。
「どうなのよ」
「どうなのよって何がだい?」
「今日のお客さんよ」
彼女が言うのはこのことだった。
「結構来てるんじゃないの?」
「さっきまではね」
そうだったというのである。あくまで先程まではというのだ。
「けれど今は」
「牧村君だけなのね」
「そうさ。今は静かだよ」
あらためてそうだというのであった。
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