第二十四話 妖異その二十
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「吉本かよ」
「吉本っていうと吉本隆明か?」
「あいつか?」
「そうだよ、あいつだよ」
俗に『戦後最大の思想家』と言われている人物である。
「あいつの昔の文章みたいだな」
「ああ、あの何書いてるのかさっぱりわからない奴か」
「麻原賛美していたあの馬鹿だな」
これが彼等の吉本隆明への評価であった。この男がオウム真理教というテロ組織、そして麻原という邪悪な俗物を賛美していたことは紛れもない事実である。
「あの阿呆の文章みたいだっていうんだな」
「っていうか似てるだろ」
「そうだよな」
「わからないこと書いてるだけだからな」
彼等はこう酷評するのだった。
「誰でもわかるように書かないと駄目だろ」
「全くだよ」
「しかしな」
そうしてこうした考えに至るのであった。
「何でこんなテキストなんだろうな」
「さあな」
「それもわからねえよな」
皆今度はこう言い合うのだった。
「しかもこれ文学の講義だろ?」
「考古学ってわけじゃねえしな」
「だよなあ」
「はじまってからわかることかもな」
ここで牧村が言った。
「それかも知れないな」
「はじまってから?」
「それからかよ」
「そうだ。それではだ」
「ああ」
「そろそろ先生来るな」
「講義を受ける」
牧村は今度は一言だった。
「いいな。それではだ」
「そうだな。何はともあれだよな」
「それからだな」
こうして彼等はその講義を受けるのだった。面白いことにこのテキストは悪文のサンプルとして扱われた。そういうことであった。
それが終わってからだった。彼等は学園の喫茶店に集まって。そのテキストの話をあらためて話すのであった。今度は笑い話としてだった。
「しかしまあ」
「そういう理由だったか」
「悪文か」
「確かにそうだよな」
「だよなあ」
牧村以外のメンバーが口々に話していくのだった。
「この文章、わからないからな」
「わかれっていう方が無理だからな」
「全くだぜ」
こう話していく。そうしてであった。
「でよ、牧村よ」
「そのテキストどうするんだ?」
「講義終わったけれどよ」
「返す」
牧村は友人達の問いに一言で返したのだった。
「博士に返す」
「まあそうだよな」
「持っていても仕方ないしな」
「だよな」
皆も彼の今の言葉に納得した顔になって頷いた。
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