第二十四話 妖異その十
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「いなかったな」
「あれっ、いないの」
「そうなの」
「魔物にも魔神にもいなかった」
それもどちらもだった。全くいなかったのである。
「全くな」
「ふむ。それはまた面白いのう」
博士はそれを聞いて呟く様にして述べたのだった。
「そういうのが一人もいなかったのか」
「それなり以上に相手をしてきたが一人もだ」
「魔物とはそういうものじゃがな」
人や同胞を食らうものだというのである。
「そうではないとはのう」
「ただ俺が今まで出遭っていないだけかも知れない」
こう仮説を立ててもみた。
「そうした魔物とはな」
「そうかも知れんのう」
博士もその可能性は否定しなかった。
「ひょっとしたらじゃがな」
「だからといってもどうかというわけでもないがな」
牧村の言葉はさばさばとしたものであった。
「別にな」
「まあそのうち会うじゃろう」
博士は言った。
「その時に考えておくことじゃ」
「そうさせてもらう。しかしのう」
「しかし?」
「君はどうなのじゃ?」
「俺か」
「そう。君じゃ」
牧村への言葉であった。
「君はそのまま人間でいてられるのかのう」
「俺は人間だ」
今更言うまでもないといった口調だった。
「それは変わらない」
「人間であればよいのじゃ」
博士はまた言った。
「しかし髑髏天使になってからの君は」
「何か変わったか」
「強くはなった」
それは認めるのだった。
「強くはのう。しかし心は変わってきたのではないかのう」
「あれっ、そう?」
「別に変わってないよね」
「ねえ」
妖怪達は彼等の話を聞いて首を傾げるのだった。それは納得していないことの何よりの証であった。
「何もね」
「特にね」
「何処もおかしいことはさ」
「それだったらいいのじゃがな」
博士は妖怪達の言葉を聞いてそれならばというのだった。
「わしの気のせいだったらのう」
「そうだ。気のせいだ」
牧村はあえてそうしようとした。これは彼の心の中だけであり外には出さなかった。博士にも妖怪達にも己の心を見せようとしなかった。
「博士には悪い言葉だがな」
「よい。気のせいならばのう」
そして博士も彼のその言葉を受けてそう返したのだった。
「それでじゃ」
「それではだ」
壁から背を離す牧村だった。そのまま部屋を去ろうとする。
だがここでまた。妖怪達が言った。
「それで牧村さん」
「何か食べる?」
こう牧村に対して声をかけてきたのである。
「ケーキあるよ」
「どうなの?」
「石榴のケーキね」
それだというのである。今日のケーキは。そして時際に牧村にその石榴のケーキを出してきた。石榴の器用に種を取った紅いものを出してきたのだ。
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