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MUV-LUV/THE THIRD LEADER(旧題:遠田巧の挑戦)
13.任官
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「子供の養育費のためだったと記憶しています。」
「その理由はな、私の連れが死んで、仲間が死んで、戦場で何回も人間が死んでいく様を見て、ようやくたどり着いたものだ。はじめはそんなこと考えず、軍の教えの通りに『世のため人のため』だった。私だけじゃない。どの衛士も大抵は極限に追い込まれないと自分の本心に気づかないんだ。中には大義が即ち個人の理由ってやつもいるが、そんなのはほんの一握りだ。戦う理由ってのは『何のために命を張れるか』ってことだ。実際に命を張る状況にならないと本当のところは見えてこない。」
 帝国軍において現状では大陸で戦った経験があるものは多くない。帝国は未だBETAの脅威に直接は晒されていないためだ。衛士で言えば中尉以上の熟練者は大陸での戦闘経験があるが、新任の少尉や多くの若者はニュースなどで情報を得ていても対岸の火事なのである。
「では実戦をするまでは戦う理由は見つからないということですか?」
「極論すればな。戦う理由といっても色々あるんだ。建前、本心、本能…、人それぞれだ。だが大事なことはな、本人が見えなくてもそれがあるかどうかだ。実戦で命をかける状況になったときにそれが有るか無いかでは大きな差がある。それがない奴はBETAを前にしてただただ恐怖して死んでいく。理由があれば死なないということではないが、強い理由は生き残ろうとする意志を支える力になるんだ。私がお前に対して抱く懸念は、幼いころから純正培養された衛士であるお前が、本当に大切だと思える理由を持っているかどうかだ。どうなんだ?」
 巧はすぐに答えることが出来ない。先日の問答から今日まで巧なりに悩んできたつもりだったが、その実一歩も前進していない証拠だった。
「言ったように今答えられるとは思っていない。だがな、今日保育園に来てお前どう思った?」
「えっ……?」
 急に話が変わり戸惑う巧。今の話と何の関係があるのか?
「具体的に言えば保育園の雰囲気というかそういうものだ。何か違和感を感じなかったか?」
 そう言われ保育園に貼ってあったポスターやスケジュール表を思い出す。
「俺のころと比べて軍の志向が強く出ていたと思います。」
「そうだ。今のところBETA戦争は大陸が主戦場だが、今後東進が止まらなければ当然帝国本土が舞台となるだろう。それを見越して今大幅な教育改革が進んでいる。全学徒総動員で軍に尽くし、男も女も兵士となって戦う。そんな時代はもう目の前だ。だから幼いころからそういった状況になじめるようにしているのさ。国のために戦って当たり前、世界のために命をかけようってな。だがそんな風に訓練漬けの毎日を送る子供たちが、自分の大切なものを見出すことができるとは私は思えない。」
 そこまで言われれば巧にも城井が言いたいことが分かった。城井は巧が今の園児たちと同じだと言って
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