第二十三話 異形その十
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「しかしわかっていなければか」
「そもそも天使はじゃ」
また話す博士だった。
「人間の味方とは限らん」
「天使は時として人に剣を振るうことがある」
牧村もまた言った。
「キリスト教の天使達にしろだ」
「髑髏天使の階級はキリスト教のものじゃ」
博士がこのことを知らない筈がなかった。知っているからこそ言えることであった。天使というものが何なのか、そのうえでの話であった。
「そういうことも考えていけばじゃ」
「天使は人間ではない」
「人間がなってもじゃ」
また言う博士だった。
「そうであってもおかしくはない」
「そうか」
「君が人間でなくなるのかものう」
じっと牧村を見る。そのうえでまた言うのであった。
「そんな気もするのじゃ」
「まさかな」
「まあわしもないとは思うぞ」
博士はこのことは断った。
「人間でなくなるとはな」
「そうだ。有り得ない」
彼は言う。
「決してな」
「そうだといい。まあとにかくじゃ」
「ああ」
「戦いには何があっても生き残ることじゃ」
このことも言うのだった。
「絶対にじゃ。さもなければ何も動くことはないぞ」
「それはわかっている」
言うまでもないことだった。何につけてもまずは生き残る、そうしなければ話にならなかった。髑髏天使にしろ人間にしろである。
「それはな」
「では行って来るのじゃ」
「そうさせてもらう」
壁から背中を起き上がらせた。するとろく子がすぐにその手にある皿を受け取った。そのうえで向かうがその背に博士が声をかける。
「生きて帰るのじゃよ」
「わかっている」
「例え魔神が出て来てもじゃ」
このことを強調する博士であった。
「何が出て来てものう」
「それもまたわかっている」
また返す牧村だった。
「安心していることだ」
「そうさせてもらうよ」
「じゃあね牧村さん」
「帰ったらまたお菓子を用意しておくから」
「菓子の美味さをわかるのも」
牧村の言葉がここでも出される。
「人間だからではないのか」
「その通りじゃよ。菓子の味がわかるのは」
牧村に応えて博士も言う。
「人間と妖怪だからじゃよ」
「魔物にはわからないな」
「天使もまあそうじゃな」
髑髏天使とはあえて言わなかった。今の博士は。
「味はわからんじゃろうな」
「なら答えは出ているな」
牧村は言った。
「俺は人間だ。間違いなくな」
「ならいい。それではじゃ」
「ああ」
「勝ってくるのじゃ」
穏やかな声を彼にかけるのだった。
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