第二十三話 異形その六
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「安かったぞ。大体スイカと同じ位じゃった」
「スイカとか」
「メロンも安くなった」
よく世間で言われていることも言う博士だった。
「ほんの五十年程前まで驚く程高かったのにのう」
「あとバナナね」
「それも高かったよね」
「そうそう」
また妖怪達が横で話していた。
「何でこんなに高いんだって思う位に」
「今じゃ何でもない値段だけれどね」
「メロンもバナナも高かったのは知っているが」
このことは牧村も知っていることだった。無論その時代には彼はまだ生まれていないので実感として知っていることではないがそれでもだった。
「今はこうしてか」
「いい時代になったわい」
そのことを心から喜ぶ博士だった。
「多くのものがこうして安く食べられるようになったからのう」
「そうだよね。卵だってね」
「安くなって料理に使いやすくなったし」
「卵はケーキにもアイスクリームにも必要だ」
作っているからこその今の牧村の言葉だった。
「どちらにもな」
「だからお菓子も安くなったんだね」
「材料が安くなったから」
「砂糖もだな」
それもだという牧村だった。
「とにかく豊かになった。だから何でも安く多量に手に入るようになった」
「よい時代じゃ。もっともこういったものは正当な貿易とかで手に入れたものじゃからのう」
「貿易でか」
「搾取ではないぞ」
博士が今出した言葉は化石となっている言葉であった。
「マルキストが言うようなな」
「マルキストか」
「あの連中は経済をわからん」
一言で切り捨てた博士だった。
「ついでに言えば教育も宗教も歴史も知らん」
「何も知らないというのか」
「同じことばかり言う連中じゃよ」
実に忌々しげに語る博士であった。
「全くもってのう」
「それは同意だ」
共産主義者という存在については牧村も同意だった。彼も共産主義には賛同していないのだった。
「あの連中の考えは俺も好きではない」
「わしは大嫌いじゃぞ」
博士ははっきりと言い切ったのであった。
「昔からあの連中が大嫌いじゃった」
「思想的にか」
「それよりも人間として嫌いな奴が多い」
そうだというのである。
「我が国のそっちに寄っている人間は下劣な輩が実に多かったのじゃよ」
「そうだったのか」
「革命が起こったら首に縄がかかるぞと論戦相手を恫喝した輩もおる」
羽仁五郎という。本職はルネサンス研究家であった。それと共に狂信的なマルキスト、いや左翼言論人として有名であった。己を民主主義の信奉者と言っていたが正体はこうした人物だったのである。
「そもそもリベラルというがじゃ」
「ああ」
「我が国のリベラルやアメリカや欧州のリベラルと違うのじゃ」
ここでは政治学を語るのであった。博士はそちら
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