第二十話 人怪その二十六
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「それならばな」
「闘わないというのか」
「私もまた闘う相手は向かってくる者だけだ」
死神は今の牧村の問いにこう返した。
「そういう手合いだけだ。そうでなければ」
「闘うことはないか」
「うむ。闘わない」
この闘わないという言葉を強調さえする。
「送るのと闘うのはまた別だからだ」
「それを聞いてわかった」
牧村は死神の今の言葉を聞き彼の方を振り向かずに頷いた。
「そういうことだな」
「わかってくれたらそれでいい」
死神もまた素っ気無く返す。
「私はそれ以上は求めないし欲することもない」
「あくまでそれだけか」
「そういうことだ。そしてだ」
彼は牧村との話をこれで終わらせそのうえでまた紳士に顔を向けて言うのであった。
「貴様はこれで帰るのだな」
「戦いは見届けた」
こう述べる紳士だった。
「私の役目はこれで終わった」
「ならば帰るのだな」
死神はその彼を追おうとはしなかった。
「もうこれでな」
「そうさせてもらう。それではだ」
紳士のマントが翻った。すると。
それで姿を消してしまった。後には何も残ってはいなかった。紳士は影一つ残すことなく何処かへとその姿を完全に消してしまったのであった。
残ったのは牧村と死神だった。だが残った二人ももうここには何の用もなかった。
「帰るとするか」
死神が牧村に声をかけてきた。
「これでな」
「ここにはもう何の用もない」
牧村も今の死神の言葉に応えるようにして言ってきた。
「もうな」
「では帰るな」
「ああ」
そして死神の言葉に頷くのであった。
「もうな。帰るとしよう」
「それでは私もだ」
死神もそれは同じなのだった。彼は既に教会の礼拝堂に背を向けていた。最早ここには何の関心もないといった態度がそのまま出ていた。
「去るとしよう」
「いい礼拝堂だがな」
牧村は今は礼拝堂の中を見回していた。落ち着いて見てみると確かに壮厳な造りであり実に神々しい礼拝堂であった。神聖さも実によく醸し出されている。
「もう帰るのか」
「私はこの宗教とは何の関係もない」
キリスト教とは、ということであった。
「髑髏天使である貴様はどうか知らないがな」
「この宗教とはか」
「この宗教の者達がどう言っているかは知っている」
それは知っているというのである。
「だが」
「だが?」
「宗教も神も一つではない」
これが死神の考えであった。
「一つではな。実際にこの宗教の神がいて私もいるな」
「確かにな」
その死神が今目の前にいるからこそ。頷く牧村だった。
「今貴様はここにいる。実際にな」
「それを否定することはできない」
死神はまた言うのであった。
「そういうことだ」
「そして俺も存在する」
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