第二十話 人怪その十二
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「だからいい」
「では何がいいのだ?」
「菓子がいい」
そして言うのはこれであった。
「菓子がな。それを食いながらでどうだ」
「悪くはない」
紳士もそれに頷きはしてみせた。
「しかしだ」
「何かあるようだな」
「私はいいがもう一人はそうはいかない」
こう彼に話すのであった。
「もう一人がな」
「そちらは甘いものは好きではないのだな」
「酒は好きだが甘いものは嫌いなのだ」
こう牧村に話すのであった。
「甘いよりむしろだ」
「血か」
牧村はここでこう紳士に返したのだった。
「貴様と同じように。血が好きなのだな」
「私が血が好きか」
「その通りではないのか」
話は血に関するものになってきていた。牧村はその声を次第に鋭いものにさせながらそのうえで紳士に対して問う。それは既に闘いに入る前のようであった。
「貴様のことはもうわかっている。それならばな」
「それは否定しない」
そして紳士もこう返したのであった。
「私が血が好きだというのはな」
「貴様も隠しはしないのだな」
「隠してどうこうというものではないからな」
この辺りは牧村も紳士も同じ様な応対を見せていると言ってよかった。少なくともどちらも己の嗜好を相手に対して隠すようなことはしなかった。
「だからだ。それは言おう」
「そうか」
「しかしだ」
だがここで紳士は言うのだった。
「血を好むのは私だけではない」
「俺がこれから会う魔物もそうなのだな」
「そうだ。少なくとも一方はそうだ」
「一方は?」
「もう一方とはいったが一人だけとは言ってはいない」
この辺りは言葉遊びであった。彼は今それをあえてしてみせてきたのである。この辺りの余裕のあるところもさりげなく見せてきたのである。
「それは違うか」
「その通りだ」
そして牧村もまたその余裕を受けてみせた。彼もまた余裕を持っているのだった。お互いにそれを見せ合ったうえで話を続けていく。
「では俺は二匹の魔物の相手をするということだな」
「残念だがそれは違う」
しかしここで。彼の後ろから不意に声がしてきた。
「私のことは忘れないでもらおう」
「貴様か」
「一匹は貴様にやる」
死神であった。そのマントを思わせる法衣の姿で彼の後ろにいた。そうしてその姿のうえで牧村、そして紳士を見すえながら言葉を続けるのであった。
「しかしもう一匹は私がもらおう」
「俺に言われてもどうとなるものではない」
牧村は死神に背を向けたままで彼に告げてみせた。
「俺が決めることではないからな」
「私が決めることだ」
今死神に対して応えてみせたのは紳士であった。
「この私がな」
「ではどうするのだ?」
「既にわかっていた」
紳士はここでは死神の問いに答えなか
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