SAO編
七話 迷いの森と小さな勇者
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らせるレベルだが、それすらも無視する。
間欠泉のごとく吹きあがる怒りは、もはやシリカから理性どころか、本能的な死の恐怖さえも奪っていた。
目の前に移るのは只々殺すべき敵の姿。
殺す殺す殺すころすころすころすコロスコロスコロスコロ「気持ちは分からんでも無いが、取りあえず落ち着け。」
不意に自分の感情とは正反対の、そんなのんびりとした声が耳に届いた。
直後、自分の攻撃がエイブに到達するよりも早く、エイブの迎撃がシリカに到達するよりも早く。
圧倒的な間合いを持った武器が二匹のエイブの身体を横一線に薙ぎ、その一撃で二体のドランクエイブは消滅した。
シリカは、いつの間にか自分の前に一人の男の背中がある事に気がついた。
奇妙な格好で、日本人なので黒髪はともかく、来ている服はまるで、男性が夏祭りに着ていく様なおおよそこの場所では不自然としか言いようのない、灰色の袖の長い浴衣の様な服を着ていた。
不思議な浴衣で、角度によって光の反射からか一部が緑色にも見える。
背は結構高く、大体180p前半位はあるのではないかと思えた。
こちらを振り向こうとするその男は、間の抜けた姿であるにもかかわらず何処か凄まじい威圧感を放っていて、シリカはようやく戻って来た本能的な恐怖からか、自分でも気付かない内に二、三歩後ずさっていた。
振り返った男と目が合った。
瞬間に、自分の首が飛んだ。
なんてことは無かったが、シリカの身体は相変わらず緊張で固まったままだった。
男が片手に持っていた柄の長い薙刀の様な武器を手の中でくるくると器用に回すと、みるみる内に柄が短くなり、最終的には腰に下げていてもあまり違和感のない長さ、大きさになってしまった。
男が口を開く。
「えーと、大丈夫……では無さそうだな、あんまり。」
そう言って頭をかいた青年の声を聞いたとたん、シリカの強張っていた全身から力が抜ける。
小さな水色の羽が無造作に落ちていた。その前にがくりと膝をついた時には、既に自分の頬を涙がとめどなくつたっていた。
既に怒りは消え去り、胸の中には大きな哀しみと喪失感だけが残る。
いつの間にか自分は地面に手をついていて、絞り出すような声が、しかし自然と漏れていた。
「戻って、きてよ……独りは、やだよぉ……ピナぁ……」
小さな嘆きに水色の羽は答えを返す事は無く、せめてもと言うように少し揺れただけだった。
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